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脳神経外科

最先端の脳腫瘍手術(術中MRI、覚醒下手術、手術ナビゲーション、術中モニタリング)

術中MRIを用いた画像誘導手術

手術中には、腫瘍摘出に伴い周囲の神経線維の走行が移動したり、髄液が流出することで腫瘍の位置が変化したりします。このように刻々と変化する情報に対してどうしたらよいのでしょうか?その答えは、手術前に行った検査をもう一度手術中に行うことです。つまり、手術中に手術室でMRI検査を行います。私たち香川大学は、16年1月に新築した手術室に四国初となる省スペース型1ルーム方式のオープン型低磁場MRI装置(APERTO, 日立メディコ)を導入しました。手術中にダイナミックに変形する脳や3次元的に広がりを持つ病変と対峙し、この術中MRI装置とニューロナビゲーションシステムを連携させ、最新の画像情報・組織情報・機能情報を統合し、最大限の切除と安全の確保を両立した脳神経外科手術ができるようになりました。


2016年1月より稼働開始の術中MRI装置


実際の術中MRI検査の風景

手術台を回転させるだけで、簡便にMRI検査を行うことが可能です。



実際の術野では、腫瘍と正常脳との境界がわかりにくい症例でも、術中MRI検査を行い、ニューロナビゲーションシステムへ画像を取り込み、改めて腫瘍の位置を確認しながら腫瘍の摘出を行います。術中MRI検査を繰り返し行うことにより、最終的に腫瘍全摘出を目標にしています。
代表症例ですが、右前頭葉に再発した神経膠腫の症例です。造影はされないため、FLAIRの高信号領域を緑色に囲み、ナビゲーションへ入力しています。また、ピンク色はメチオニンにて集積が認められた領域を表しています。ナビゲーションによる緑色とピンク色の情報を頼りに腫瘍摘出を行い、一回目の術中MRI検査を施行しました。しかし、摘出領域よりも内側にFLAIRにて高信号領域が残存していることがわかります。そのため、FLAIRの高信号領域を水色にて囲み、ナビゲーションに再入力を行い、摘出を行いました。2回目の術中MRI検査ですが、水色を含めて、ピンク色のメチオニンの領域も併せて摘出できていることが確認されました。そのため、再発は認められておりません。

覚醒下手術で言語機能温存

脳腫瘍の症状は、脳腫瘍の種類や脳内にできた場所によって様々です。例えば前頭葉の言語野に脳腫瘍ができると、言葉を話したり、理解したりすることができなくなります。では、言語野に腫瘍ができれば手術はできないのでしょうか?そのようなことはありません。全摘出はできないかもしれませんが、私たちは、覚醒下手術にて言語機能の領域を把握し、できるだけ多くの腫瘍を摘出できるような手術を行っています。覚醒下手術とは、手術中に患者さんの意識を覚醒(かくせい)させ、摘出する部位に電気刺激を行いながら発話停止の有無にて言語領域を把握し、摘出範囲を決定する手術です。つまり、大切な脳機能は温存し、摘出可能な腫瘍部位をできるだけ多く取り除くことで手術後の生活に支障をきたさないように心掛けた手術です。



覚醒下手術にて、腫瘍内の言語領域を検査している写真です。左上は、実際の顕微鏡で見ている術野であり、緑線は腫瘍の境界です。右上は、ニューロナビゲーションの画像です。右下は、実際の患者さんの写真であり、復唱の検査を行っているところです。左下は復唱の質問内容です。左上の写真で、実際の脳表に刺激を行うと「ラジオ、あくび、しかく」を復唱することができなくなり、この部位が言語に関連した部位であるということがわかります。

手術ナビゲーション

脳は頭蓋骨の中に所せましと詰まっていますので、あまり動かすことが出来ません。また神経を損傷しないように最も適切な最短ルートで病変に到達する必要があります。そこで、当院脳神経外科の手術ではナビゲーションを用いて、合併症を極力回避しています。
ナビゲーションは、わかりやすく言うと、カーナビのようなもので、それぞれの患者さんのPET、MRIやCTなどのデータをナビゲーションに取り込み、脳の地図を作成することで、手術中にリアルタイムで脳のどこを手術しているか、病変はどこまであるのかなどの情報を顕微鏡の視野内に表示することができ病変がどこにあるのか、術者に教えてくれます。
我々は1999年から香川県内では最初に脳神経外科手術ナビゲーションシステムを導入し、以来、安全な脳神経外科手術に大きな成果を上げています。現在は2台の最新ナビゲーションシステム(Medtronic社の「StealthStation S7」)を導入しており、定期手術だけでなく、緊急手術に対してもナビゲーションを利用することで、ほとんどの手術において、より安全な手術が可能となっています。これにより、特に脳の深いところにある腫瘍や、境界がわかりにくい腫瘍、病変と重要な正常組織が隣接している場合には、非常に有用で、必要最小限の脳の切開や、大事な部位の温存が正確に可能となりました。
緊急時や並列手術にも対応できるよう、2台のナビゲーションを導入しています。術中は大型液晶画面で術中MRI、術野、ナビゲーションなどを統合的に表示することで、術者、アドバイザー、麻酔科医、医療従事者らと情報共有を図っています。




この症例では、左前頭頭頂部にできた脳腫瘍の摘出手術に際し、腫瘍のアミノ酸代謝を調べるメチオニンPET画像を手術ナビゲーションシステムに取り込みMRI画像と融合し、悪性度が最も高いと思われる部位を確実に摘出して診断しました。



この症例では、左前頭葉にできた脳腫瘍の摘出手術に際し、腫瘍の核酸代謝を調べるフルオロチミジンPETを手術ナビゲーションシステムに取り込みMRI画像と融合し、悪性度が最も高いと思われる部分を摘出しました。また術前にfunctional MRIを用いて言語野の広がりを同定しその部分を損傷しないように手術を行いました。

術中神経モニタリング

術後の脳神経機能の合併症は、患者さんのその後の生活に重大な影響を及ぼします。そのため神経モニタリングによる手術中の異常の早期検出は、不可逆的な神経合併症の予防に大変重要です。神経モニタリングの目的は、運動機能に加え、感覚機能、視機能、聴覚機能などの温存で、モニタリング法は多岐にわたります。モニタリングには、脳神経外科医、麻酔科医、臨床検査技師のチームワークが欠かせません。
現在、香川大学医学部脳神経外科教室では以下の術中モニタリングを行っています。

運動誘発電位(MEP): 中心溝近傍腫瘍、脳動脈瘤手術
体性感覚誘発電位(SEP): 中心溝近傍腫瘍、脳幹腫瘍、脊髄腫瘍、脳動脈瘤手術
聴性脳幹反応(ABR): 小脳橋角部腫瘍、顔面けいれん、脳幹腫瘍
視覚誘発電位(VEP): 視神経近傍腫瘍、下垂体腺腫、後頭葉腫瘍
局所酸素飽和度(rSO2): 頚動脈ステント留置術、頚動脈内膜剥離術
脊髄誘発電位: 脊髄腫瘍
覚醒下手術: 言語野・運動野近傍腫瘍

これらの術中モニタリングは手術ナビゲーションシステムと組み合わせることで、難易度高い手術でも合併症を極力少なくするように努めています。

手術以外の脳腫瘍の治療について

現在の大規模統計の結果に基づいたevidence based medicine(根拠に基づく医療)の流れがある一方、近年ではprecision medicine(個別化医療)という考え方が着目されています。
たとえば膠芽腫・悪性神経膠腫については、通常の治療ではテモゾロミドという抗がん剤が用いられます。この腫瘍組織に存在するMGMT(O-6-methylguanine-DNA methyltransferase)というDNA修復酵素をコードする遺伝子の上流(プロモータ領域)のメチル化の状況により、この抗がん剤への反応性が予測されます。

以前より当科では、抗癌剤に対する耐性を示す遺伝子の発現を、個別の腫瘍毎に検討するという方法が行われています。この「抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査」は先進医療として、当科を含め国内13ヶ所の施設で実施されています。手術中に得られた脳腫瘍の組織から遺伝子を抽出し、PCR (polymerase chain reaction)と呼ばれる方法を用いて、抗がん剤への耐性に関係した遺伝子の発現を調べます。その結果から抗がん剤への反応性を知ることができます。