漏斗胸の治療について説明する「胸のかたち」研究室

大人の漏斗胸・女性の漏斗胸の手術をたくさん行っています。

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ナス法の欠点(1.輪郭の不整)

ナス法だけでは不整が残る場合がある

【「でこぼこ」が生じる場合がある】

図1:胸骨反転法

ナス法が出現した当初においては、従来行われていたラビッチ法に比べてはるかに短い傷と手術時間で手術を行うことができるため、優れた方法として絶賛を浴びました。もちろん優れた方法であるとの認識にはいまだ変わりはなく、基本的には漏斗胸の治療における第一選択術式ではあります。しかし欠点も次第に指摘され始めています。欠点の一つとして、一部の患者さんにおいてはなめらかな胸のかたちを得ることができないことがあげられます。より平たく言うと、ナス手術を行うことによって胸のかたちに「でこぼこ」が生じてしまう場合があるのです。
例えば図1は、ある病院でナス手術をお受けになった患者さんの胸の写真です。手術の前に胸の正中部にあった凹みについてはたしかに治っています。しかし、乳房の下の部分が少し窪んでいますし、逆にあばら骨の下の方は出っ張りすぎています。

【なぜ「でこぼこ」が生じるのか】

図2:ナス法で直接持ち上げられる部分は、
バーが接触するごく一部にすぎない

こうした「でこぼこ」が生じるのはある意味、ナス法においてはどうしても避けられないことなのです。その根本的な理由は、ナス法のしくみそのものにあります。ナス法においては、バーを使って胸郭を押し上げることにより凹みを治します。しかしバーはそれほど太いものではありませんから、バーが胸壁と接触している部分の面積はごくわずかです。このわずかな面積のみにおいて、胸郭は押上げられているわけです。たとえば図2ですと、丸印で囲った部分のみにおいて、胸郭はバーによって前方に押されているわけです。

図3:一部のみを押し上げるとどうなるか?

例えば、図3に示したような金属板の凹みを、下から押し上げて治すことを考えてみましょう。まんべんなく凹んだ部分を押し上げることができれば、なめらかな輪郭に治すことは可能です。しかしごく一部分だけにしか力を加えることができなければ、持ち上げた部分の凹みは治るかもしれませんが、どうしても凹んだ部分の全部を持ち上げることはできません。そのために、ある程度の凹みが残ってしまいます。

これと同じ理由で、ナス手術を行っても、必ずしも胸のかたちをなめらかにすることはできないのです。漏斗胸の胸郭は、もともと凹んでいます。ということは、そもそものかたちが不整なのです。こうした不整な形の底の部分のみを持ち上げても、凸凹をある程度残しつつ持ち上がってしまって、そうそう都合よくなめらかなかたちになってくれなるとは限りません(図4)。

図4:ナス法で胸郭を持ち上げても、ある程度の不整は残る

子供の患者さんの場合には軟骨が軟らかいので、それほど苦労しなくても比較的きれいな輪郭になってくれます。しかし成人の患者さんの場合には、胸郭が硬くなってしまっているので、なかなか美しい輪郭の胸郭を作るのは難しいのです。

【「でこぼこ」の解決方法

【(1)―骨に対して操作を加える】

5:硬い胸骨に対してナス手術を行う場合

それでは、なめらかな形に治すためにはどのようにすれば良いでしょうか?二つの方法があります。まずは、単純なナス手術を行うのではなく、工夫を加えた手術を行うことです。たとえば胸郭の中央部に存在する、胸骨(きょうこつ)が上に反り返っている患者さんに対して普通にナス法を行ってバーを挿入すると、胸骨の下部分が上に上がり過ぎて凸凹の原因になります(図5)。このような場合には胸骨を離断して、下部が持ち上がらないようにしなくてはいけません。

【なぜ「でこぼこ」が生じるのか】

図6:胸骨が軟らかいときには複数のバーが必要である

また、これとは逆に胸骨が軟らかい患者さんもおいでになります。こうした患者さんに対して手術を行うと、バーを装着した部分のみが持ち上がってしまい、胸郭の下部が凹んだまま取り残されてしまいます。こうした変形を避けるためには、バーを2本以上使用しなくてはいけません。

【(2)―組織の移植を行う】

ナス法では完全に治しきれない胸郭の「でこぼこ」を治す第二の方法は、凹んだ部分に組織の移植を行う方法です。移植する組織は自分のものでなくてなくてはいけません。シリコンなどの異物を注入して凹みを治す方法もあるにはあるのですが、長期的に見ると感染を起こす可能性が高い上、だんだんとずれて行ってしまうこともありうるのであまりお勧めできる方法とは言えません。
移植する自分の組織としては、脂肪がまず考えられます。お腹やお尻から脂肪を採取して注射器などを使って凹んだ部分に移植する方法です。脂肪移植は形成外科では女性の乳房の豊胸術などに良く用いられている、ごく普通の手術手技です。
しかし、脂肪移植を漏斗胸の治療に用いるためには二つの問題があります。
まず、十分な量の脂肪を採ることが困難です。漏斗胸の患者さんは一般的に痩せているので、腹部やお尻から十分な量の脂肪をとることができません。無理をして脂肪を採ってしまうと、脂肪を採った部分の形をいびつにすることになります。
第二に、脂肪組織を移植してもたくましい感じの胸にはなりません。たしかに、見かけ上の胸のボリュームを増やすことは可能です。しかし脂肪組織は軟らかいので、ぶよぶよとした感じの、歩けば揺れる感じの胸になってしまうのです。したがって、漏斗胸患者さんの80パーセントを占める男性に対しては、脂肪移植はあまり良い方法とは言えないのです。女性の患者さんに対しては、まあ考えてもよい方法とは言えるでしょう。しかし、脂肪移植を行う施設は多くの場合、営利を目的としています。ゆえに治療にかかる金銭的な負担は大きなものになります。
男性の場合には、硬い組織でボリュームをアップすることが必要です。このため、香川大学形成外科では再生医療の技術を応用した、培養軟骨細胞の移植を行っています。これについては別のページ(「 香川大学のOnly One’s » 再生医学を応用した治療」)で説明します。

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