再生医学を応用した治療
培養軟骨を用いた漏斗胸治療の試み
男性の患者さんに対しては、骨や軟骨などの硬い組織を移植する治療が適しています。とはいえ脂肪などとは異なり、身体の他の部位からそれほどたくさんの組織を採取することはできません。この反面、多くの漏斗胸の症例においては補うべきボリュームは小さくはありません。このジレンマをいかに解決したら良いのでしょうか?もし体の一部から少しだけ組織を採り、これを何十倍・何百倍に増やすことができれば、この問題は解決します。このため漏斗胸の治療において今、再生医学の技術が着目されています。香川大学形成外科はこの分野のフロントランナーです。
香川大学形成外科においては、軟骨を移植する治療法に取り組んでいます。正確に言えば、「培養によって増やした軟骨細胞」です。患者さんの耳から1センチ四方くらいの小さな軟骨を採取して、これから軟骨細胞を採取して1か月くらいかけて1000倍程度に増やします(図7)。
図7:耳介から軟骨を採取して細胞を培養する
図8:培養した軟骨を注入しているところ
こうして増殖させた軟骨細胞を大胸筋と肋骨・胸骨の間に移植(図8)すれば、筋肉が「底上げ」されてたくましい感じの胸をつくることができます(図9)。
耳からの軟骨採取は30分もあれば入院せずに外来で行えますし、軟骨を少しとったからと言って耳のかたちはほとんど変わりません。少ない負担で大きな効果が得られる点が魅力です。こうした再生医学の技術を漏斗胸の治療に応用した経験のある高次医療機関は、今のところ香川大学だけです。実際に治療を行った例をご覧に入れます。
図9:培養した軟骨移植により治療を行った症例
図10:図9のCT所見