漏斗胸の治療について説明する「胸のかたち」研究室

大人の漏斗胸・女性の漏斗胸の手術をたくさん行っています。

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万全な「痛み」対策

【痛みのない治療を行うには】

香川大学病院形成外科においては、患者さんに楽な治療を受けていただくために、痛みの生じるメカニズムを研究し、徹底的に対策を立てています。具体的には以下のような取り組みを行っています。

対策1:熟練された常勤の麻酔科医による痛みの管理を行っています

図4:鎮痛剤の点滴チューブ

漏斗胸の治療を楽にお受けになるためには、痛みの管理の専門家である麻酔科医の存在は不可欠です。この管理は術後3~4日は行われますので、痛みに悩まされないためには常勤の麻酔科医の存在は不可欠です。
ところが麻酔科医は全国的に不足しておりますので、手術の時のみ他の病院から呼んだ麻酔科医に手伝ってもらう、というシステムをとっている病院もあります。このような場合、仮に手術の翌日に痛みが生じたとすると、対処ができません。手術後に痛みに悩まされないためには、病院に麻酔科が常勤しているか否かが重要なチェックポイントです。

香川大学病院においては専門医の資格を持つ麻酔科医のチームにより、徹底的な痛みの管理がなされています。例えば図4はポンプの一部で、黄色い部分を押すと薬液が多く流れるようになっています。漏斗胸の手術のあとには、数日の間点滴を留置します。点滴チューブから痛み止めの薬液を流します。写真のポンプを使って、薬液が流れる量を患者さんご自身がある程度調節できるようにします。こうした工夫を行うことで違和感を最小限に抑えます。餅は餅屋といいますが、こうした痛みの管理は、麻酔科の先生が抜群に上手です。筆者は麻酔科の先生には、いつも本当に感謝しています。

対策2.痛みが生じにくいように工夫して手術計画を立てています

図5:肋軟骨に割を入れて柔軟性を増せば、
少ない力で持ち上げを行える。

ナス法は優れた手術方法ではありますが、一部の患者さんに対してはナス法をそのまま用いると、痛みに悩まされる場合があります。まずはこうした、ナス法をそのまま行ってはいけない患者さんを見極めなくてはいけません(「オーダーメイドの漏斗胸治療」)。この上で、単なるナス法ではなく、工夫した手術を行う必要があります。具体的には以下のような工夫を行っています。

【肋軟骨に補助的な操作を加える】
成人においては肋軟骨が硬化しているために、ナス法を行って矯正しようとすると痛みが強くなることを説明しました(図2)。このそもそもの問題は、肋軟骨が硬いということです。肋軟骨に操作を加えて柔軟性を増すことができれば、より小さな力で肋軟骨を持ち上げることができますので、胸郭に無理な力が加わらずに痛みもぐっと少なくなります。

しかし整容面の改善が主たる目的である漏斗胸の手術において、肋軟骨に割をいれるために目立つキズアトを作ってしまうようなら、手術を行う意味が半減してしまいます。そこでできるだけ小さな切開線でこの操作を行う必要があります。香川大学病院においては、ごく小さな切開線から内視鏡を使って肋軟骨を軟らかくする技術を開発しました(図6)。この方法を導入してから、胸郭の硬くなっている成人の方に対しても、痛みの少ない治療ができるようになりました。また、切開した傷についても、美容外科的な技術を用いて縫いますので、目立つ傷になることはほとんどありません。傷跡をきれいに治す技術を持つ、形成外科だからこそできる治療です。

図6:小さな切開線から肋軟骨に割入れを行う技術

【痛みが少なくなるようにバーの本数を調整する】
ナス方法においてはバーを用いて胸郭のかたちを矯正します。用いるバーの本数は症例に応じて異なります(図7)。1本のこともありますし、2本もしくは3本のバーを用いることもあります。4本以上のバーが装着されることはほとんどありません。

図7:症例に応じて用いられるバーの本数は異なる

図8:支持体が増加すると重量は分散する

何本のバーを使用するかによって、術後の痛みの程度は変わってきます。意外に思われるかもしれませんが、バーを用いる本数が多くなるほど、痛みは生じにくくなるのです。香川大学の永竿が世界で初めてこの法則に気が付き、胸部外科の国際誌に報告しました。

この法則が成立する原理を簡単に説明すると、複数のバーを用いることにより一本あたりが担うべき負担が減少することです。わかりやすい例で言いますと、昔の日本の駕籠と、おみこしを担ぐのといずれが楽なのかを考えてみると良いでしょう。駕籠は担ぎ手が二人ですが、おみこしはより多くの担ぎ手がいます。ゆえに一人あたりの負担が少なくなります。漏斗胸のバーの本数についても同じことが言えます。複数のバーを使用した方が、一本当たりの担うべき重量が少なくなります。バーを支えている肋骨の負担も減りますから、痛みは少なくなります。

もっとも、だからといってむやみに多くのバーを使えば良いというわけではありません。使うバーの本数が多くなると、痛みの制御が容易になる反面で、感染のリスクが増えてしまうからです。そこで、個々の患者さんの胸郭の特性を詳細に評価したうえで、「この患者さんでは痛みが強くなる可能性があるからバーは3本入れて力を分散させよう」とか、「この患者さんは、痛みはそうでもないし、肉が少ないからバーを2本にしておこう」とかいう様に、個々の患者さんの胸郭の特性を熟慮したうえで、最適な手術計画を立てて行っています。

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