漏斗胸の治療について説明する「胸のかたち」研究室

大人の漏斗胸・女性の漏斗胸の手術をたくさん行っています。

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薄い胸板の治療

うすい胸板の治療について―「扁平胸郭」

10年ほど前までは、誰が見てもかたちに問題がある場合に対してしか、手術による治療は行われて来ませんでした。しかし、身体に対する負担の少ない治療が開発されるのに伴い、手術の適応範囲は広がりつつあります。

例えば図1の左の患者さんにおいては、胸の凹みはそれほどではありませんでした。激しい運動をした際に胸部が圧迫されるなどといった症状はありましたが、明らかに異常とまでは言えず、正常と異常の境界、というのが適切でしょう。

しかし、胸の横径に比して縦径が小さく、いわゆる「胸板」が薄い状態であることは確かです。胸郭の厚さは男性らしさに大きく影響するので、患者さんにとって深い悩みになっていました。そこで患者さんの強い要請を受けて、手術を行いました。

この結果を見て、大変驚きました。図1右のごとく胸郭の外観的印象は激変するし、運動時の胸部の圧迫感も見事に改善したためです。

このように、胸板が平たい患者さんは数多くおいでになりまし。しかし、それを気に病んで病院を受診しても「異常はありませんから手術までは不要です」と、ほとんどの場合に言われてしまいます。たしかにこうした状況は、今までの概念の漏斗胸ほどには重篤ではありません。しかし実際に患者さんにとっては大きな悩みになっており、かつ手術を行えば、改善が得られることも、一面における事実です。

そこで室長(永竿)は、上記の考えを一般の医師に伝えるために「扁平胸郭」という新しい概念を提唱することにしました。室長らの感覚によると扁平胸郭を有する患者は100ないし200人に1人存在するようです。

インターネットを中心とする情報環境の改善に伴い、漏斗胸の治療が低侵襲になっていることを患者さんはよく把握するようになっています。これに伴い、胸郭形態の改善を求めて病院を受診する患者も増加しています。室長らも漏斗胸の治療に取り組み始めたばかりのころには、扁平胸郭を取り扱うことはそれほど多くありませんでした。

図1-扁平胸郭の患者に対してナス変法を施行した症例。術前(左)と術後(右)における胸郭の印象には大きな差が見られる。

しかし、前述の患者さんにおける治療が非常に成功したのを機に、扁平胸郭の症例に対しても積極的に治療を行うようになりました。

ここからがさらに大切です。ナス法が普及したことにより扁平胸郭に治療の適応が広がってきたことは、ラビッチ法に比して小さな皮膚切開ですむ点もさることながら、力学的な原理の点から見ても非常に理に適っているのです。

ラビッチ法においては胸郭の陥没部分は、左右の最突出点を結ぶ面を基準として修正されます。逆に言えば、この基準面を胸郭の前面が超えることはあり得ません。また、胸郭の横径は手術に伴って変化しません。

図2-ラビッチ法における形態の変化。胸郭の最突出点を連結するレベル(図左の点線)を基準として陥没は修正されるが、この基準線を超える前突は得られない。

扁平胸郭(=薄い胸板)の修正をするためには、上述した基準面まで陥没部分が挙上されるのみでは不十分です。扁平胸郭の形態的な問題は、横方向にのっぺりと長いことです。

これを修正して美しい胸郭の形態を得るためには、胸郭の正中部分が、基準面を超えて挙上されなくてはいけません。さらに、扁平胸郭においては胸郭の横径が長すぎるので、これを短く誘導しなくてはいけません。

図3-扁平胸郭を修正する上で必要な条件。左右の突出点を結ぶレベル(点線)を超えた突出が得られる必要がある。また胸郭の横径が過長であるので、短く誘導されるのが望ましい。

この点、ナス法の治療原理はラビッチ法に比してはるかに合目的的です。

まず、ナス法においてはバーを用いることにより、ラビッチ法における基準面よりもさらに腹側に正中部の位置を規定することができます。ゆえに、より大きな前突を得ることが可能になります。  

さらに、バーの装着後は、陥没の復元力はバーを介して外側から内側へ向かう力を胸郭に及ぼします(図4)。ゆえに胸郭の横径を縮小する方向に作用します。これら二つの効果により、平板であった胸郭が立体的な形状に誘導されます。

図4-ナス法においてはバーの装着により内側に向かう力が作用するので(矢印)、胸郭の横径の減少・縦径の増加が期待しうる。

このようにナス法の原理を応用してうまく治療を行えば、「うすい胸板」を治すことができます。

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