ナス法の欠点(5.肋骨・肋軟骨移行部の問題)
図1:いわゆる「ナス法の原理」
下のような図が、ナス手術の原理を説明するためによく用いられています。すなわち、軟骨の部分(図1の黄色の部分)は骨と異なりやわらかく、ある程度の力を加えると形が変わりえます。そこでこの部分を下から持ち上げて、持ち上げた位置で胸骨を固定すれば、胸の形が正しく修正されるというものです。この説明は非常にわかりやすいですが、実際はそのように単純なものではないということを、ここでは説明します。
図2:骨・軟骨移行部と頂点との関係
まず、図2を見てみましょう。ある患者さんの胸部CTデータですが、中央の部分が凹んでいることがお判りになるでしょう。つまり胸壁には凸凹があります。そこで「凸」の部分、すなわち胸壁がいちばん前に出ている点を「頂点」と呼ぶことにします。
頂点」はおのおのの肋骨について左右ひとつずつ存在します。
また図2では、骨の部分は金色で、肋軟骨の部分は褐色で示されています。両者の合わさる部位を「肋骨―肋軟骨接合部」と呼ぶことにします。「頂点」の位置は「肋骨―肋軟骨接合部」よりも内側にあることにご注目ください。
こうした状態においてナス手術を行うと、どのような現象が生じるでしょうか。図1でお見せした原理どおりに考えると、図3のように上手く凹みが矯正され、なめらかな胸郭の形態が得られるようにも思えます。
図3:理論上のナス法
しかし実際には、図3で示したような変化は起こりません。このことは、胸郭のもっとも凸な部分の構造を見直してみると、よくわかるはずです。肋骨の最前部(図2で「頂点」と名づけた部分)は骨によって構成されています。この部分は骨でできているので、力を加えても曲がりません(図4)。
図4:理論上のナス法の矛盾
下から力を加えた際に曲がりうるのは、肋軟骨(黄色)の部分です。骨は硬いので、形はかわりません。そして肋軟骨と骨の接合部は、頂点よりも内側に存在します。ゆえに実際には、陥没している領域の全部は図3のように持ち上げられず、中央に近い一の領域のみが持ち上げられます(図5)。
図5:実際のナス法の問題点
「頂点」の部分を含めて陥没している部分全体を持ち上げるためには、図6のように頂点の部分で骨を離断して、この部分の可動性を得るほかはありません。
図6:実際のナス法の問題点
ただし単一の部位のみの離断を行っても、ことはそれほど単純にはゆきません。というのはバーを装着して陥没した部分を挙上した場合、図7に示すように、離断した部分のみが浮き上がり、ここに段差が生じるからです。
図7:単純な離断を加えることの結果
胸郭をなめらかに持ち上げるためには、一か所のみで離断を行うのではなく、連続的に切れ込みを入れて、無理なく弯曲させることが必要です。
図8:割入れをすることによる効果