漏斗胸の治療について説明する「胸のかたち」研究室

大人の漏斗胸・女性の漏斗胸の手術をたくさん行っています。

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背骨の変形はないですか?―脊椎変形と漏斗胸

【漏斗胸と脊椎側弯は関連する】

「胸壁」と「背骨」とは文字通り、表裏一体の関係をなしています。ゆえに、胸壁の先天変形である漏斗胸と、背骨の変形には密接な関係があります。背骨の変形の、医学的な病名は「脊椎側弯症(せきついそくわんしょう)」といいます。実際に漏斗胸患者さんを診察していると、脊椎側弯を併発している患者さんの割合がかなり高いことに驚かされます。脊椎側弯で整形外科にかかっていて、漏斗胸ということで形成外科に紹介されておいでになる方も数多くおいでになります。逆に漏斗胸の手術のためにCT検査を行ってみて、脊椎の曲りが発見される方もおいでになります。

漏斗胸の手術を行うにあたっては、脊椎の形についても配慮することが非常に重要です。というのは、脊椎の状態は漏斗胸の手術に影響されるからです。特に左右のいずれかの側が大きく凹んでいる、非対称性の漏斗胸症例においてはこのことが重要です。

図1:漏斗胸手術が脊椎に影響する理由

非対称の漏斗胸に対して手術を行うと、脊椎の形に影響がでる理由について説明しましょう。
ナス手術でバーを装着して胸壁を持ち上げるときに、胸壁はバーに対して持ち上げの力(図1のEF)を及ぼします。持ち上げられた胸壁はもとの凹んだ位置に戻ろうとして、バーに対して反作用を及ぼします(図1のR1とR2)。この反作用の向きは、非対称性の漏斗胸の場合には真下ではなく、少し斜めを向いています。斜めに凹んだ胸壁を斜め向きに持ち上げるわけですから、この反作用も斜め向きに生じるのは当然です。ともあれ、斜め下に向かう反作用がバーに加わるわけです。バーを支えているのはつまるところ胸郭です。また、胸郭は背骨によって支えられています。ゆえに、この斜めに向かう反作用を受け止めるのは、結局のところ脊椎なのです。斜め方向の反作用の中には水平方向、つまり横向きの成分も存在します。ゆえに脊椎の形が曲がってゆくことが起こるのです。

脊椎のかたちが曲がる場合もありますが、逆に良くなることもあります。漏斗胸の術前における脊椎の弯曲の方向(右に曲がっているか、左に曲がっているか)と、どちらの側が凹んでいるか(右の胸郭か、左側の胸郭か)には法則性があります。簡単にいうと、胸郭の凹みの強い側から反対側に向けて脊椎が弯曲している症例では、術後に脊椎の側弯は増悪します。そして逆の方向に脊椎が曲がっている場合には、脊椎の曲りは改善してゆくのです。例えば右側の胸郭が左に比べて落ち込んでいる患者さんで、脊椎が右側から左側に向かって曲がっているのならば、術後の脊椎の曲りは強くなる可能性があります。その逆ならば脊椎の曲りは改善が期待できます。香川大学形成外科の永竿は世界に先駆けてこの法則性を発見しました(リンク)。
この法則自体は理解する必要はありませんし、もちろん例外もあります。肝心なことは、漏斗胸の治療は胸のことだけを考えていては駄目で、背骨も含む胸郭全体のことを考えて治療を行うことだ、と言うことです。

図3:胸郭の非対称性と側弯の関係性

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