漏斗胸の治療について説明する「胸のかたち」研究室

大人の漏斗胸・女性の漏斗胸の手術をたくさん行っています。

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他院で手術後の「やり直し」について

手術のやり直しは、初めて手術を行う場合よりも難しい

私(永竿)のところへは、別の病院で手術を受けられた患者さんも多くおいでになります。こうした患者さんは、「胸の真ん中の凹みは手術を受けて治ったものの、どうも形が今一つだから、もう少しきれいになりませんか」や、「バーを抜いた後に後戻りがおこってしまいました。もう一度、凹みを治せませんか」と、おっしゃいます。つまり手術の「やり直し」を希望されるわけです。

手術一般に言えることですが、回数を重ねることに難度が増します。つまり、過去に手術を受けられた患者さんに対して手術を行う場合には、はじめて手術を行う場合よりも手術の時間はかかるし、リスクも増えると言う事です。

実をいうと私は、この点でいつも苦労をしています。最初の手術を行った先生が、もっとよく考えて手術の計画を立ててくれればよかったのにと思うことがしばしばあります。

たとえば図1をご覧ください。小学生の頃、ある病院で漏斗胸の手術を受けた患者さんです。手術後、胸のかたちに満足できず、学生時代を通じてずっと悩まれておりました。社会人になって心機一転、もう少しきれいな形にして欲しいと言う事で、私の外来を受診されました。

図1 小学生の頃に手術を受けられた患者さん。再修正を希望して受診。

この患者さんの手術をされたのは小児外科の先生と言う事ですが、治療そのものは間違ってはいません。というのは図1の「下部」の画像で見られるように、心臓の圧迫そのものは、治っているからです。心肺機能の点からだけ考えると、たしかに初回の手術で、かなり改善はしたことでしょう。ですが、胸の上部の凹みは治ってはいません。

つまり漏斗胸という病気を、「心臓と肺の病気」と見れば、治療は成功していますが、機能プラス形態の病気と見れば、失礼ながら手術は合格点とは言えません。ですが、形成外科・美容外科を学んだことのない先生にそこまでの要求をするのも、なかなかに無理があります。この点が難しいところです。

ともあれ患者さんは悩んでおられるわけですから、手術をやり直して、胸のかたちを整え直しました。図2に、術前と術後の状態を示します。

図2:手術をやり直して胸のかたちを修正しました。

手術をやり直した結果、患者さんにはとても喜んでいただけました。ですが手術の時間は通常の手術の3倍近くかかりましたし、はじめての手術に比べるとリスクも少し上がるので、かなり気をつけて手術を行わなくてはいけませんでした。

私はこうした患者さんに出会うたびに、患者のみなさんには、最初からしっかりとした外科医に手術をお受けになっていただきたいと常々願っています。

このためにはまず患者さんご自身に、「再手術は、初回の手術に比べてリスクがすこし上がる」という事実をしっかりと理解していただく必要があると考えました。

ところが患者さんは医学の専門家ではありませんから、「手術のやり直しは、初めて手術を行う場合よりも難しい」と言われてもなかなかピンときません。

これはある意味、無理もないことかもしれません。デジタル万能の時代のなかで多くの人は、人間の体は自動車のように部品の組合せであり、問題のあるパーツを取り換えればそれで修理は完了、と考えているからです。

そこで本項では、(漏斗胸の)再手術のイメージを解りやすくお伝えしようと思います。

漏斗胸の再手術とは

図3:再手術の際に胸腔鏡で見た、肺の状態。
胸壁に癒着している。

図3をご覧ください。ある患者さんの胸腔を内視鏡で見た状況です。下に見えるピンクの臓器は肺です。上に見えているのは胸壁(いわゆる「あばら」)です。肺と胸壁とはくっついています。これを癒着(ゆちゃく)と言います。再手術が難しくなる大きな理由は、この癒着がおこるからです。

胸壁の形を治すためには、肺を胸壁から外さなくてはいけません。この操作を行う際に、起こりうる問題を説明します。

肺は空気中の酸素を血液内に取り込む役割を果たしています。ゆえに、風船のように膨らんだり、縮んだりする性質を持っています。つまりは一種の「風船」と言う事です。

そこで、風船が何かに張り付いている状況を考えてみましょう。例えば図4は接着剤を使って風船を窓に貼りつけた状況です(実際にそんなことをする人はいませんが)。風船がしっかりと窓にくっついている場合には、無理に剥がそうとすれば風船は割れてしまいます。

図4:窓にくっついた風船をはがすと、風船は割れる

肺が胸壁に癒着している場合にも、これと同じ現象が生じます。癒着している程度が強くない場合には、肺をきれいに胸壁から剥がすことも可能です。しかし肺と胸壁がしっかりとくっついている場合には、肺の表面の膜を薄く削ぎ取らなくてはいけません。こうすると肺の中に入っている空気が外に漏れることになります。これをair leakと言います。

図5:肺と胸壁の癒着が強い場合には、空気漏れが生じる。

こうした空気漏れを防ぐためにはどうしたら良いのでしょうか。再び風船を使った例えに戻ります。あらかじめ大きな洗濯ばさみ、あるいはクリップで風船を挟んでおきます(図6)。

図6:大きなクリップで風船を挟んでおく

こうした準備をしておいた上で風船を切れば、切り離した風船は破裂しません(図6)。

図7:クリップで固定しておけば、風船を破らずに切り離すことができる

肺が胸壁にくっついている場合にも、同じ処置を行えば胸壁から肺を切り離すことは可能です。肺に蓋をしておいてから切り離せば、空気漏れを防ぐことができます(図8)。蓋をするためには特殊な器械が使われます。この器械は一般的には目にすることがありませんが、何十という弾を同時に打ち出す、ホッチキスのようなものをイメージしてください。

図8:あらかじめクリップをかけておけば、肺を胸壁から切り離すことは可能である。

このように肺と胸壁との癒着が強い場合でも、両者を分離することは何とか可能です。とはいっても、肺の一部分を切りとることは体にとって負担になりますし、「蓋」をしたつもりでも後になって空気が漏れる場合もあります。

以上述べた理由で、やり直しの手術は、初回の手術よりも大変なのです。

幸い、図2の患者さんに関しては、肺の一部を切る必要はありませんでした。ですが、審美的なセンスを持っている先生に初回の手術をしていただけたのなら、そもそも2回も手術を受ける必要はなかったはずです。

ですから皆さんは、くれぐれもよく検討して執刀医をお選びください。本サイトがそのお役に立てば幸いです。

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