漏斗胸の治療について説明する「胸のかたち」研究室

大人の漏斗胸・女性の漏斗胸の手術をたくさん行っています。

骨も大切だが、肉も大切

胸郭のかたちだけ治せばよいわけではない ~軟部組織の修正が必要

漏斗胸は胸郭(あばら骨および肋軟骨)のかたちの変形と理解されています。しかし、本当に満足できる結果を求めるのならば問題になってくるのは「いかに軟部組織の形成を上手に行うか」ということなのです。あばら骨の形さえ整えれば問題は解決する、というほど漏斗胸の治療は単純なものではありません。これはぜひとも理解していただきたいところです。
なぜなら漏斗胸においては多くの場合、胸郭の以外にも以下のような問題があるからです。

漏斗鏡における胸郭以外の問題点

1.筋肉のボリュームが少ない

図1:大胸筋の非対称を伴う症例

とくに男性において問題になります。大胸筋や小胸筋など、あばら骨に付着している筋肉の量が左右で異なる場合がしばしばあります。例えば図1の症例では、右の大胸筋の大きさが左に比べて明らかに小さくなっています。こうした場合には、一般的な漏斗胸の手術を行って胸郭の形のみを修正しても、整容的に良い結果を得ることはできません。大胸筋の形成手術が必要です。このためには背部より筋肉を移行したり、培養した細胞や組織を移植したりします。

2.乳房の非対称や低形成を伴う場合がある

女性の漏斗胸患者さんにおいてはほとんどの場合、胸郭だけではなく左右の乳房の大きさ・形が異なります。この場合には一般的な漏斗胸の手術を行って胸郭のかたちのみを治しても、審美的に満足のできる結果は得られません。胸郭のかたちを治すことに加えて乳房のかたちも修正するか、あるいは乳房の形成手術を、胸郭の形成手術より優先させるべきです。
例えば図2の患者さんでは、胸の右側が凹んでいることがすぐお分かりになるでしょう(図2左)。施設によってはこの状態を見て、すぐに漏斗胸の手術を行うかもしれません。しかしこの患者さんの場合には、全体の印象を左右しているのは胸壁の凹みではなくて、乳房の左右差なのです。これを修正するために背部より組織を採取します(図2右)。

図2:ある女性の漏斗胸の患者さん。右の胸壁が凹んでいる(左図)。
背部より組織を採取して移植する手術を計画(右図)。

図3:術前(左図)に見られた右胸の凹みは、
背部よりの組織移植で自然な感じになった(右図)

背部より採取した組織を右の乳房に移植した結果、乳房のかたちと大きさはほぼ対象になり、満足していただけました(図3)。

図4:土台が同じでも、上部構造によって
印象は全く異なる

以上のように、漏斗胸の治療を行うにあたっては、脂肪などの組織を行う方法や、乳房の形を整える技術が必要です。これは考えてみると当然のことです。家に例えるなら胸郭は「土台」に、筋肉や乳房は壁や屋根に相当します。たとえ土台の構造が同じであったとしても、壁や屋根の作りが異なるならば家の印象は全く異なります(図4)。

これと同じことで、胸郭のかたちだけを整えても、満足していただける結果を得られない場合がしばしばあります。
ゆえに漏斗胸の治療を行う医師は、漏斗胸の手術を行う技術以外に乳房や筋肉の形成手術を行う技術も持っていなくてはいけません。実際にそうした手術を行うか否かは別にしても、ひとつの手段としていつでも使える技術を持っていなければ、良い結果を得ることはできません。漏斗胸の治療を受けるにあたっては、執刀する医師に漏斗胸の手術だけではなく、筋肉や乳房に関する形成手術の経験がどのくらい豊富なのかを確認された方が良いでしょう。

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