漏斗胸の治療について説明する「胸のかたち」研究室

大人の漏斗胸・女性の漏斗胸の手術をたくさん行っています。

論文・著書

筆者は日本における漏斗胸の治療を世界的な水準に高めるために、国際誌を中心に積極的に発表を行ってきました。いままでに筆者が発表した論文のうち、重要なものについてご紹介します。

2024年度

Biomechanical Evaluation of Additional Surgical Maneuvers to Improve Symmetry in Performing Nuss Procedure for Asymmetric Pectus Excavatum(非対称性漏斗胸の治療において良好な結果を得る新しい手術法についての、バイオメカニクス的技法による有効性の証明)

【掲載誌】e-Plasty: 電子ジャーナル

非対称性漏斗胸に対して、室長らは新しい手術法を開発しています。その有効性を、力学計算を用いて証明しました→くわしくはこちら

2023年度

Separation of the seventh costal-sternal junction−A new technique to improve outcomes for the Nuss procedure for pectus excavatum(季肋部の形を美しく整える、漏斗胸の新しい手術方法)

【掲載誌】Journal of Plastic, Reconstructive and Aesthetic Surgery

成人の患者さんに対してナス法を行うと、季肋部(腹部周辺のあばら骨)が持ち上がり、不自然なかたちになります。これを防ぐための、新しい手術方法を開発しました(詳しくはこちら

2022年度

Evaluation of fat thickness of adult female pectus patients(女性漏斗胸患者における胸部の脂肪の厚さについての研究)

【掲載誌】European Journal of Plastic Surgery

女性の漏斗胸患者さんに対して治療を行うにあたっては、胸郭の形だけではなく、乳房の形も美しくするように工夫が必要です。室長(永竿)らは女性の患者さんにおいては、みぞおちの部分の脂肪が厚くなっている場合が多いことを発見しました。さらに、この特徴を活かした新しい手術方法を開発しました(くわしくはこちら

2021年度

Outcomes of the Nuss procedure for pectus excavatum in adults(成人に対する漏斗胸手術の長期成績)

【掲載誌】Journal of Plastic, Reconstructive and Aesthetic Surgery (欧州形成外科学会誌)

室長(永竿)は2016年に香川大学に赴任するまでは、慶應大学病院において多くの患者さんを治療していました。同院において治療を行った結果を、放射線科の医師と共同で解析した研究の報告です。漏斗胸患者さんに対して治療を行うと、いわゆる「猫背」が改善することがわかりました(くわしくはこちら

2020年度

Treatment of Chest Deformity: A Guidebook for Patients (漏斗胸患者さんのための教科書)

Design Egg Co. ISBNISBN-13 : 978-4815022013

米国や台湾から、香川大学病院へ漏斗胸の治療を受けにおいでになる方が増えてきました。そうした方々のために、漏斗胸の治療を受ける上で知っておいていただいた方が良いことを、英文でまとめたガイドブックです。Amazonより購入することができます(詳しくはこちら

2018年度

Bone-cartilage prpportion in deformed ribs of male pectus excavatum patients (男性漏斗胸患者における肋骨―肋軟骨移行部についての解剖学的研究)

掲載誌:Journal of Plastic Surgery and Hand Surgery (北欧3国形成外科および日本形成外科学会機関誌)

肋骨は硬組織であり、肋軟骨は軟組織です。軟組織は力を加えると変形しますが、硬組織の形は変わりません。ナス法は本質的に、力を加えることにより胸郭の形態の修正する方法です。ゆえに骨の割合の大きな胸郭を有する成人の患者に対しては、ナス法は単独の方法としては限界があります。本論文はこの事実を指摘し、かつそれに対する対策を世界で初めて論じています。(論文の概略についてはこちら

2017年度

Thoracic outlet syndrome after the Nuss procedure for pectus excavatum: Is it a rarecomplication?(ナス法の施行が手や上肢に及ぼす影響について)

【掲載誌】Journal of Plastic, Reconstructive and Aesthetic Surgery (欧州形成外科学会誌)

成人の胸郭は小児の胸郭とは硬さが異なります。ゆえに本来は小児の漏斗胸のために開発された手術であるナス法をそのまま行うと、手や上肢の感覚が鈍くなる場合があります。多くの場合においてはそうした感覚低下は時間に伴って軽減してゆきますが、そもそもなぜそうした現象が生じるのかに関しては解明されていませんでした。本論文ではこの原因について説明した上で、副作用を防ぐためにはどのような手術手技を追加すればよいのかを解説しています。

2016年度

A biomechanical study of relationship between sternum defect patterns and thoracic respiration (胸骨の欠損パターンと胸式呼吸の関係)

【掲載誌】コンピューター支援外科学会誌(Journal of Computer Aided Surgery)

肺がんの手術や心臓外科の手術の際に、胸骨が切除される場合があります。胸骨は胸郭の正中に存在する骨で、左右の肋骨を前面で連結する役割を果たしています。したがって胸骨が欠損すると、呼吸のパターンに影響が出ます。本論文では、胸骨の切除によって肺活量がどのくらい下がるのかを、バイオメカニクスの技術を用いて解明しました。

2015年度

Scoring of Deformed Costal Cartilages Reduces Postoperative Pain after Nuss Procedure for Pectus Excavatum (肋軟骨に対する操作を加えることで、ナス法術後の疼痛は軽減する)

【掲載誌】ドイツ胸部外科学会誌 (Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgeon )

ナス法を画一的にすべての患者さんに対して適応すると、患者さんによっては術後に痛みをうったえる場合があります。胸郭が硬化していることがその原因です。筆者らは漏斗胸の治療においては手術と同様がそれ以上に、痛みを減らすようにコントロールすることが重要であると主張しています。また、痛みを少なくする手術のテクニックを開発しました。この論文では、痛みを軽減するためのテクニックを紹介し、なぜそのテクニックが有効であるのかを証明しました。痛みを軽減させるテクニックに関しては、香川大学は日本でもっとも進んだ施設のひとつです。

2014年度

Irregular location of major pectoral muscle can be a causative factor of pectus excavatum (大胸筋の発育不全は漏斗胸の発生原因の可能性となりうる)

【掲載誌】Medical Hypotheses

どの疾患についても言えることですが、本質的な治療を行おうとするのならば、そもそもその疾患がなぜ発症するのかということを究明しなくてはいけません。筆者は何百人という患者さんを診察する中で、とくに男性において大胸筋の発達が悪い方が多いことに気がつきました。このことをヒントに、そもそもなぜ漏斗胸が発症するのかについて仮説を立て、その理由づけとともに発表しました。漏斗胸について発生メカニズムのような根源的な立ち位置から、世界に向けて情報を発信することが、日本の漏斗胸治療の水準を上げることにつながると筆者は考えます。

2012年度

Anatomical Study of the Thorax for the Safe Performance of the Nuss Procedure for Pectus Excavatum (ナス手術を安全に行うための基礎となる、解剖学的研究)

【掲載誌】ドイツ胸部外科学会誌 (Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgeon )

ナス法の手術は肺や心臓といった、生命に直接関連する臓器に隣接する部分において行われます。このために心臓外科や呼吸器外科の医師や、特別に修練を積んだ小児外科医や形成外科医師のみにより行われてきました。筆者は漏斗胸の患者さんの頻度に照らする、より多くの医師に漏斗胸の治療に参入してもらうことが大切であると考えています。そこでどのような経路で手術を行えば安全なのか、手術にあたってはいかなることに注意する必要があるのかをまとめて発表を行いました。

2010年度

Age-related change of postoperative pain location after Nuss procedure for pectus excavatum (年齢変化がナス法の術後における痛みに与える影響)

【掲載誌】欧州胸部外科学会誌(European Journal of Cardio-Thoracic Surgery)

ナス法においてバーを挿入した後に、患者さんによっては違和感や痛みを訴える方がおいでになります。痛みを少なくするための対処法については日本ではあまり論じられてきませんでしたが、筆者は痛みの管理の重要性につき、早くから警鐘を鳴らし続けてきました。この論文は大人と子供の痛みのメカニズムが異なることを世界で初めて解明した論文です。

Double-bar application decreases postoperative pain after the Nuss procedure (複数バーの使用により術後の疼痛は減弱する)

【掲載誌】米国胸部外科学会誌 (Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery )

胸郭に装着するバーの本数は患者さんに応じて異なります。一般的には、陥没している面積が広いほど、多くのバーが必要とされます。また、バーを使用する本数が多くなるほど、再建した胸郭の安定性は高まります。この反面で、使用するバーの数が多ければそれだけ感染を惹起する可能性が高まることも事実です。それでは痛みに関してはどうか、という疑問に答えたのが本論文の内容です。筆者らは患者さんへの調査およびバイオメカニクスの技法を用いることにより、使用するバーの本数が多くなるほど特定の肋骨への負荷集中がなくなり、痛みが減ることを解明しました。この研究の成果は2012年度国際漏斗胸学会で大きく取り上げられました。この研究成果は国際的に注目されています。2013年にデンマークで行われた国際漏斗胸学会において大きく取り上げられ、日本発の重要な研究成果として着目を浴びました。

Dynamic effects of the Nuss procedure on the spine in asymmetric pectus excavatum (非対称漏斗胸症例における、ナス手術の脊椎に対する影響)

【掲載誌】米国胸部外科学会誌 (Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery )

漏斗胸の患者さんには脊椎(背骨)の先天的な曲り(脊椎側弯症)を呈している患者さんが多くおいでになります。胸壁と背骨が表裏一体であることを考えると、この現象そのものは当たり前です。問題となるのは、脊椎の側弯がある患者さんに対して漏斗胸の治療を行うと、その弯曲にどのような影響が生じるのか、ということです。筆者らは手術を行った患者さんの調査と理論的な力学解析に基づき、どのような患者さんでは脊椎の弯曲が増悪しやすいのかを解明しました。

2009年度

漏斗胸手術に伴う形態変化の予測システムの開発

【掲載誌】日本形成外科学会誌

ナス法においてバーを挿入することにより胸郭の凹みを治しますが、挿入を行う部位により胸郭の形は大きく変化します。どのような形になるのかを予測することは、美しい形の胸郭を作るうえでとても重要です。筆者らは、手術を行うとどのような形になるのかを予測するシステムを開発しました。なおこの研究に対して、翌年(2010年)の形成外科学会賞(臨床部門)が与えられました。

2008年度

The “leaf incision”: a new technique for secondary operations requiring simultaneous scar revision(2次的手術において瘢痕形成を美しく行うための新しい切開法)

【掲載誌】欧州形成再建外科学会誌(Journal of Plastic, Aesthetic and Reconstructive Surgery)

ナス法においては2回目の手術においてバーを抜去しますが、2回目の手術は1回目の手術の結果できた傷跡を再び切開することにより行われます。この際に、いかに切開を加えると傷をきれいに治すことができるのか、新しい方法を開発しました。

2007年度

Stress distribution on the thorax after the Nuss procedure for pectus excavatum results in different patterns between adult and child patients (ナス法の施行後に胸郭に発生する応力パターンは成人と小児で異なる)

【掲載誌】米国胸部外科学会誌 (Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery )

ナス法の術後に生じることのある痛みの原因を、バイオメカニクスの手法を用いて解析した研究です。一部の患者さんはナス法を行うと痛みを訴えることがありました。しかし、どのような患者において手術の痛みが生じやすいのかは解明されていませんでした。筆者は胸郭に発生するストレスが痛みの原因であることをつきとめ、痛みを緩和する治療に結びつく糸口を明らかにしました。本論文がきっかけとなり、世界中で「ナス法の術後に痛みを生じさせないことが重要である」という認識が広まりました。

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