香川大学医学部小児科

診療グループの概要

わたしたちは、全国的にも珍しい、小児の消化器疾患や肝臓疾患を専門に診療しているグループです。四国では唯一の専門グループとして、県内だけでなく、四国内からも紹介を受けています。近藤園子医師をグループ長として、2名で診療に従事しています。対象疾患は、消化器疾患では炎症性腸疾患や好酸球性消化管疾患(好酸球性食道炎、好酸球性胃腸炎)、大腸ポリープ、逆流性食道炎、ヘリコバクターピロリ胃炎、胃十二指腸潰瘍、慢性便秘症などで、肝臓疾患では自己免疫性肝炎、原発性硬化性胆管炎、慢性B型肝炎、Wilson病、NAFLD/NASHなどです。専門診療を支える検査として、腹部エコー検査、上下部消化管内視鏡検査、小腸カプセル内視鏡検査、上部消化管造影検査、注腸検査、pH/インピーダンスモニタリング検査、肝生検などを積極的に行っています。これらの検査は、小児科だけでなく、小児外科、消化器内科、病理診断科と連携して安全に実施しています。当診療グループは、2013年の専門診療開始以来、年々内視鏡検査件数が増えており、地方でもこの分野での専門診療の必要性が増していると感じています(下表)。都心部の患者数や検査数には及びませんが、今後も地域を支える小児消化器肝臓分野の医療を提供していきたいと考えています。

注力している疾患

炎症性腸疾患
(潰瘍性大腸炎/クローン病)

炎症性腸疾患は、腸に慢性の炎症が生じる病気です。近年、日本でも患者数が増加しており、乳児期や小児期に発症することもあります。一般に、炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎とクローン病に分類されます。
潰瘍性大腸炎は、大腸に持続する炎症が生じる病気です。大腸の粘膜に潰瘍やびらん(ただれ)ができてしまいます。症状は、繰り返す下痢や血便、腹痛です。最初、炎症は直腸に起こることが多いのですが、特に小児患者では大腸全体に炎症が広がりやすいことが知られています。

クローン病は、持続する炎症があらゆる消化管に生じる病気で、粘膜に潰瘍やびらん(ただれ)ができてしまいます。全消化管に炎症が生じます。症状は多彩で、下痢、腹痛、血便などの消化器症状に加え、難治性の肛門周囲膿瘍や痔瘻、また、消化管以外の症状(発熱、関節痛、貧血、体重減少・成長障害など)をきっかけに気づかれることもあります。
潰瘍性大腸炎やクローン病の診断は、上部・下部消化管内視鏡検査や腸管粘膜の病理組織検査加え、必要に応じて小腸カプセル内視鏡検査や小腸造影等の画像検査を行い、総合的に診断します。
潰瘍性大腸炎とクローン病は、発症すると完治が難しく、良くなったり悪くなったりを繰り返します。治療は、薬を使って悪くならないようにすることが目標です。治療が不十分で病気が進行すると、潰瘍性大腸炎では大量に出血したり、腸管が破れるなど、クローン病では腸が狭くなったり(狭窄)、腸に穴があいたり(穿孔)するなど重篤な状態になることがあります。
炎症性腸疾患は、長期に渡り付き合っていかなければならない病気であり、学校生活や旅行、受験など子どもたちは病気と付き合う中で様々な悩みと向かい合っていきます。子どもたちが健全に学校生活や日常生活を送れるように医師、看護師、保育士、管理栄養師、薬剤師、臨床心理士が入院生活から退院後の生活まで一貫してサポートしていきます。

好酸球性消化管疾患

好酸球性消化管疾患(好酸球性食道炎・好酸球性胃腸炎)は近年、消化器領域で成人・小児ともに注目されている病気です。原因不明の嘔気・嘔吐、下血・血便、下痢、腹痛などの中に、好酸球性消化管疾患がかくれていることが分かってきました。多くは食物アレルギーが関与した消化器症状です。病気が続く期間は様々で、半年程度で軽快するものから、長期に渡るものもあります。
診断は、内視鏡検査や消化管粘膜の病理組織検査で行います。肉眼的に消化管に異常がなくても、病理組織検査で好酸球の増多がみられることがあります。したがって、この疾患を念頭において内視鏡検査を行わないと診断できないため、不定愁訴、心因性、機能性胃腸障害などと診断されている場合も少なくありません。

慢性肝炎

慢性肝炎は症状がほとんどないため、見過ごされることが多い疾患です。小児期には無症状であっても将来、肝硬変や肝がんを発症する可能生があります。慢性肝炎の原因は、肝炎ウイルス感染症や自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎、原発性硬化性胆管炎)、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)など多岐に渡ります。
診断は、血液検査や超音波検査、肝生検などにより行います。 治療は、原因により異なります。肝炎ウイルス感染症では、薬物治療を行い、肝硬変や肝がんへの進展を阻止します。自己免疫性肝炎に対しては、ステロイド治療を行います。
自覚症状のない小児の慢性肝炎は、普段の日常生活を送りながら治療することが重要です。わたしたちは、患児の進学や進級に支障のないように専門外来にて診療を行っています。

慢性便秘

便秘症は日常的によく遭遇しますが、軽視されがちです。また、排便という非常にデリケートな問題でもあり、子どもたちや親御さんたちが誰にも相談できずに密かに悩みを抱えている場合も少なくありません。
小児の便秘症の多くは、排便や食生活などの生活習慣の改善、緩下剤による内服治療で改善します。しかし、肛門近くに硬い便(便塞栓)があると、なかなか改善しません。まずは浣腸などを使って便塞栓を除去する必要があります。
また、難治性の便秘症の中には、ヒルシュスプリング病や神経疾患などの病気が隠れていることもあります。これらの病気が疑われる場合は、小児外科や小児神経科と連携しながら診断・治療を行っていきます。

研究の概要

小児IBDの腸内細菌叢研究;香川大学医学部分子微生物学講座と共同で、小児炎症性腸疾患患者の腸内細菌叢について研究を続けています。

教育

十分な内視鏡検査の研鑽を詰めるよう、消化器内科の協力のもと、成人を含め院内外での内視鏡研修を行っています。業績に関しても、学会発表や、論文作成の指導を行っています。また、将来のキャリア形成についても気軽に相談できるようにしています。

診療グループ長の紹介

助教(副医局長)
近藤 園子
役職 助教(副医局長)
出身大学 香川医科大学
卒業年 平成13年(2001年)
専門 小児消化器・肝臓・栄養
所属学会 日本小児科学会
日本周産期・新生児医学会
日本新生児成育医学会
日本小児栄養消化器肝臓学会
日本肝臓学会日本消化器内視鏡学会
日本カプセル内視鏡学会
日本消化管学会
資格等 日本小児科学会 小児科専門医・指導医
日本肝臓学会 肝臓専門医
日本小児栄養消化器肝臓学会 認定医
日本消化管学会 胃腸科専門医

メンバー構成

近藤園子、近藤健夫

関連病院

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若手へのメッセージ

2013年に消化器肝臓外来を開設以来、県内に加えて四国内の医療機関よりご紹介をいただき、ありがたいことに年々患者さんが増えてきています。腹痛は、小児にとって比較的よく遭遇する症状です。便秘が腹痛の原因であることが多いですが、便秘ひとつをとっても、長期的に悩まれる患者さんもいれば、難治性で専門的治療が必要な場合もあります。そのようなcommon diseaseだけでなく、最近小児でも増加傾向の炎症性腸疾患や好酸球性消化管疾患など、わたしたちの専門分野が活かせる患者さんやその家族に寄り添いながら専門診療を行っていきます。