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人工尿道括約筋

人工尿道括約筋植え込み術とは

厚生労働省が発表した2016年のがん患者統計で、香川県は人口10万人あたりの前立腺がん患者が全国で2番目に多いことが判明しました。
その要因の検証はまだされていませんが、検診率の高さなどが背景にあると思われます。
検診によって早期に発見された前立腺がんの治療方法としては、待機療法、ロボット手術、小線源治療、放射線外照射療法などがあります。
それぞれどの治療方法を選択するかは、がんの広がりや悪性の程度、転移の有無などによって異なってきます。
がんが局所にとどまっている場合は手術を選択される方も多く、香川大学附属病院でもロボット支援下前立腺全摘除術を数多く行っています。
手術では前立腺及び精嚢を摘出し、その後膀胱と尿道をつなぎ直したのち、尿路を再建します(図1)。

図1前立腺全摘術前及び術後の模式図

手術後は、ほとんどの方が尿漏れを経験しますが、その多くは、数ヶ月から半年程度で改善するといわれています。
しかしながら5-10%の方に、その後も尿漏れが続くといわれています。
尿漏れの原因として、尿道を締める尿道括約筋の障害や、膀胱機能の問題などがあげられます。
前立腺全摘術後より1年以上たっても重度の尿漏れが続く場合は、お薬などの治療では改善が見込まれません。
このような方には人工尿道括約筋埋込術が最も効果的な治療方法です。人工尿道括約筋は平成24年4月より保険適応となりました。全身麻酔で行いますが、手術は1-2時間程度で数日間の入院が必要です。
人工尿道括約筋は尿道の周りにシリコン製のチューブを巻き付けその中に液体を充填することで尿道を圧迫し、尿失禁を治療します。
人工尿道括約筋は3つのパーツに分かれています。尿道を圧迫する部分、液体を貯留しておく部分、陰嚢内に設置して尿道括約筋を動かすスイッチとなる部分です(図2)。

図2人工尿道括約筋の仕組み(Boston Scientific社ウェブサイトより)

このうち、尿道の部分に尿道のサイズに合わせた部品を埋込みます。
手術を行った後には6週間程度尿道括約筋をゆるめたまま作動させないで尿道になじませる必要があります。
これを行わずに早期から装置を動かした場合には尿道の萎縮や炎症による括約筋の尿道内への脱出が起こりやすいといわれており、最悪の場合には摘出や再手術が行われる場合もあるので必ず守る必要があります。
手術後、尿道カテーテルは通常手術翌日に抜去します。そのため、約6週間後にスイッチを作動させるまでは、これまで通り尿は漏れている状態が続きます。スイッチを作動させた後は、尿意を感じるたびに自分で陰嚢内に設置したスイッチを押すことによって排尿できるようになります。
排尿後は再び尿道に巻き付けたカフが自然に膨らみ尿道を締めることで尿失禁を予防できます。
これまで人工尿道括約筋の手術成績の報告は多くあります。代表的な報告では、術後3年でパッド使用が1日1枚以内となる割合が96%、そのほかのグループの報告では6.5年の経過観察で88%の成功率との報告も見られます。いずれにしても高い有効率ではありますが、必ずしも100%の有効率ではなく、一部には効果が見られない方もいます。
この手術は、前立腺肥大症の手術の後でも適応となります。手術後の尿漏れに困っている患者さんはこの機会に一度泌尿器科医にご相談ください。