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骨盤臓器脱(子宮脱、膀胱瘤など)

骨盤臓器脱とは

骨盤臓器脱とは、「骨盤底のヘルニア」とも呼ばれ、腟の出口から腟壁と一緒に膀胱、子宮、直腸などの骨盤内の臓器が脱出する疾患で、中高年女性に頻度の高いQOL疾患です。

「骨盤底筋」と呼ばれる、骨盤内の臓器を支える筋肉が緩むことによって引き起こされ、妊娠、出産、肥満、加齢などが原因といわれています。
骨盤臓器脱は、膀胱が出てくる場合を「膀胱瘤」、直腸が出てくる場合を「直腸瘤」、子宮が出てくる場合を「子宮脱」、子宮摘出後に腟の断端が出てきた場合を「腟断端脱」と分類されていますが、単一臓器のみが出ている場合は少なく、最近は総称して骨盤臓器脱と言われています。

岡添 誉:骨盤臓器脱.Uro-Lo.(24)2, 207-214,2019
(メディカ出版)より許諾を得て転載(無断転載を禁ず)

症状

①下垂症状

陰部にピンポン玉のようなものが触れる、トイレで排尿、排便後に紙で拭く時に何かあたる気がするなどで気づくことが多いです。最初はおなかに力を入れた時に体外に飛び出してくる程度ですが、悪化してくると常に飛び出した状態となり、股に何か挟んだような不快感があり、歩行にも支障がでてきます。また、脱出した臓器が擦れて出血することがあります。

②排尿・排便症状

トイレが近い、尿漏れ、尿が出にくい、便秘などが出現します。「立ち上がると急にトイレに行きたくなる」、「トイレの前で漏れたのに、いざ出そうとすると出にくい」、「朝は良いが、夕方になると下がってきて尿がなかなか出ない。」といった訴えが聞かれることがあります。

検査

まずは問診を行い、どのような症状があるのか、妊娠・出産歴、内服薬、既往歴、生活習慣などを伺います。
その後下記のような検査を進めていきます。

①内診

診察台で腟鏡を使い、腟内のどの部位が下がってきているのかを調べ、重症度を判定します。

②尿検査・尿流測定・残尿測定

骨盤臓器脱が進行すると、残尿が増加し、尿路感染症を伴うリスクが高まります。
またおしっこの勢いの検査(尿流測定)、残尿測定を行って、排尿状況を確認します。

③超音波検査・膀胱造影・MRI

各臓器の下垂の評価に超音波検査、MRIを用います。また膀胱尿道造影というレントゲン検査を行って、膀胱瘤の程度を確認します。

治療

①骨盤底筋体操

軽症の場合は骨盤底筋体操を行うことで骨盤内の臓器を支える筋肉を強化し、症状の改善をはかります。しかし中等症以上の場合は改善することは難しく、治療が必要になります。

②ペッサリーリング

腟内にペッサリーリングを入れて、骨盤内臓器の脱出を防ぎます。外来で挿入でき、3-6か月毎に交換します。手軽ですが、腟内にびらんができて帯下が増えたり出血したりする合併症を認めることがあります。

③手術療法

骨盤臓器脱に対する根治的治療(治してしまう治療)は手術療法のみです。特に重症例では残尿、尿路感染症、水腎症などを伴う場合があり、手術が適応になります。術式にはメッシュを用いない骨盤臓器脱修復手術(NTR)、経腟メッシュ手術(TVM)、腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)などがあります。

メッシュを用いない骨盤臓器脱手術(NTR)

NTRには多くの術式がありますが、泌尿器科医師が行う機会が多いNTRは膀胱瘤に対して行う前腟壁形成術(前腟縫縮術)です。この術式は、脱出した腟壁と膀胱の間を剥がし、余った腟壁を切除し、縫い縮める手術です。

NTRはメッシュを用いない方法のため、メッシュ関連の合併症(痛みやメッシュの露出・感染など)が起こらないことが利点です。そのため、コントロール不良な糖尿病の患者さん、ステロイド使用や免疫不全など、感染リスクが高くメッシュの使用が困難な患者さんや、メッシュの使用を希望しない患者さんなどが適応となります。

しかし、緩んだ自己組織を使用して修復を行うため、再発率(30-50%)が高いことが問題となります。NTRは臓器脱の起こっている部位のみを修復するため、術後に他の臓器脱が起こる(例:膀胱瘤の術後に直腸瘤が出てくる)可能性があります。

経腟メッシュ手術(TVM)

TVM手術は、メッシュを用いて骨盤底を全体から修復する手術であり、同一の手術でほぼすべての骨盤臓器脱の治療に対応可能です。メッシュを用いる手術のため、再発率(10-15%)は比較的低いですが、メッシュびらんや疼痛などのメッシュ関連合併症が起こる可能性があります。

手技に関しては、メッシュを固定するための針を通す際に盲目的操作があるため、適切に行わなければ出血や臓器損傷を起こす可能性があります。
手術時間は1-2時間程度で、メッシュが組織にしっかりとくっつくまでの期間(2-3か月程度)は、比較的安静にし、腹圧をかけない生活が必要になります。

腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)

LSCはメッシュを使い、経腹的(おなかの中から)に腟を仙骨に固定する手術です。腹部に4か所の小さい穴(手術用ポート)をあけ、そこから内視鏡カメラと手術器具を使用して行います。腟壁と膀胱、腟壁と直腸の間にメッシュを入れて固定し、そのメッシュの端を引き上げて仙骨前面の前縦靭帯に縫い付けることで、臓器が下垂してこないようする手術です。手術は4時間程度で終了します。

TVM手術と比べた時の利点としては、再発率が低く(5%以下)、術後の疼痛が経度であること、メッシュを靭帯に縫い付けるため術後の生活で腹圧をかけない安静期間が短い(2-4週)ことがあります。

岡添 誉:骨盤臓器脱.Uro-Lo.(24)2, 207-214,2019
(メディカ出版)より許諾を得て転載(無断転載を禁ず)

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