6.Q & A

トリガーツールに関するQ & A(IHI マニュアルより抜粋、一部修正)

Q:自分の組織での収集データを、自院内の他の組織や、国内の他の病院との比較に使用できま すか?
A:できません。GTT は1 組織の状況を経時的にモニターするためのものです。訓練とプロセス の標準を保持する努力がなされても、レビュー者の技術等により組織間のばらつきが生じま す。我々は、同一の組織における変動は比較的安定していると考えており、自組織について の経時的比較は可能になりますが、組織間の比較には同様の有用性を発揮しません。自組織 の発生率が一般的な範囲にあるかどうかには、全国データを使うべきです。

Q:GTT の妥当性については議論がいくつかあるようです。このツールを使用するのに時間をか ける意義がありますか?
A:確かに、GTT の妥当性について議論が行われています。理解しなければならないのは、有害 事象を同定するゴールドスタンダードがないことです。GTT を遂行する時間は相対的に小さ く、高度な技術的投資を必要としません。GTT は自発的報告に比べ感度がよく、個々の病院 で経時測定を行うよい方法を提供しています。

Q:GTT を使うことにより、すべての有害事象を同定できるのでしょうか?
A:GTT は、決してすべての有害事象の同定を意図したものではありません。経験豊富なレビュ ー者は20 分で完全なレビューを行いし、そこからほとんどの3a 以上の事象を見つけるでし ょう。しかし事象の判断には時間を要し、時には見過されてしまう可能性もあり、すべての有 害事象が同定されるわけではありません。

Q:自院に来る前、患者に有害事象が起こっていたら、これをカウントしますか?
A:カウントします。なぜならば基準は患者が何を経験したかで、院内で何が起こったかではな いからです。しかし報告の際に区別できるように、レビューシートにチェック欄を設けました。 (他院、多施設由来のものをカウントするか否かについては、個々の施設の事情に応じてご検 討ください。)

Q:我々の病院は紹介患者を多く受け入れています。院外の有害事象をすべてカウントするとい うことは、自分たちに不利な結果となることになりませんか?
A:同上

Q:GTT を使用する時、組織が発見する被害の大体のレベルは?
A:米国では、1000 患者総入院日数あたりに90 の有害事象、あるいは100 入院あたりに40 の 有害事象が発見されています。日本の全国調査では3b 以上が入院の6.8%となっています。

Q:1 つ以上のトリガーが見つかり、同じ薬剤から異なる2 つの有害事象が現れたら、この場合 有害事象は2 件ですかそれとも1 件ですか(例えば@アロプリノールによる血小板減少症と 嘔吐がある場合、A複数の薬剤が原因であるかもしれない嘔吐がある場合)?
A:どちらの場合も1 つの事象としてカウントします。しかし、ここで重要なことは処置または 治療の必要があったかどうかです。1、2 回の嘔吐は処置があったとしても通常は被害とは考 えませんが、長引く嘔心・嘔吐によって、処置が必要になったり、食事量が減少したり、回 復に制限が生じれば有害事象かもしれません。血小板減少症はそれ自体有害事象ではありま せんが、その臨床的所見や処置を見つけていく必要があります。 @では、どちらの所見も同じ薬剤に関連している可能性があるので、1 つの事象と呼ぶこ とができるでしょう。Aでは、どちらの薬剤が原因か突き止める方法がないので、1 つの事 象として考えます。

Q:例えばINR が6 以上の場合を考えてみると、これは治療域を超えており当然意図したもので はなく、患者には凝固障害があるため有害と言えます。たとえ出血やその他の身体的合併症 がなくても、このような場合には有害事象とみなすのでしょうか? 50mg/dl 未満の血糖値に ついてはどうでしょうか?たとえ臨床的症状がなくても、正常血糖に改善することを目的に 血糖降下薬を使用したことによるもので、さらに意図したものでもありません。症状が出現 していなくても、薬剤に関連した有害事象(ADE)として分類すべきでしょうか?
A:GTT を使用する際のポイントは、陽性トリガーと有害事象を区別することです。なぜならば、 それらは同じではないからです。 例えば、INR6 以上は陽性トリガーであってそれ以上のものではありません。これが発見さ れた時、被害の記述として記録を調査しなければなりません。たとえそのようなレベルでも、 運良くまったく被害(例えば出血、あざ)を経験しない患者もいます。一方被害を経験する患 者もいます。これが有害事象の決定です。 WHO の「意図しないかつ有害な」と言う定義によれば、INR のこの程度までの上昇は意 図したものではありませんが、有害とは言えないかもしれません。単純に被害の可能性がある 状態にいるということは、それ自体被害とは言えないのです。 同じことが、50mg/dl 未満の血糖値にも言えます。これは、単なるトリガーです。50mg/dl 以下に低下しても全く症状を持たない患者もいるかもしれません。この場合、被害とは何でし ょうか?我々はそれを被害とはしません。しかしながら、もし患者にめまいや失神エピソード があり、ぶどう糖の投与を受ければ、それは被害です。 有害薬剤事象を含んだ我々の有害事象の定義は、予期されない有害な事象です。

Q: 我々の施設ではレビューを2 回行いましたが、有害事象を見つけることができませんでした。 何か間違っていますか?
A:これはよくあることです。この様なことには主に二つの理由があります。 1) 少量の無作為サンプルを使っているため、選択された小規模の診療記録セットには有害事象が なかった可能性があります。次のレビューでは多くの有害事象が見つかるかもしれません。 これはサンプル間同士で起こる可能性がある広いばらつきです。これは、あなたのベースラ インを判断する前には、最低12 のデータを取得するための時点を必要とする理由です。 2) もう1 つの可能性は、3a の事象がいくつか見過ごされているということです。これは慣れて いないレビュー者では珍しいことではありません。なぜならば、多くの3a 事象は伝統的に 予防可能性がないと思われ、また処置に伴うリスクと考えられていたからです。陽性トリガ ーが見つかったが有害事象が見つからない場合、3a 事象があるかもしれないと考えて、もう 一度レビューしてみてください。

Q:我々の組織ではジフェンヒドララミン(Benadryl)を使っていないのですが、このトリガー をどのように使えばよいでしょうか?
A:もし医薬品集に適合しない与薬トリガーがあれば、トリガーは修正されるべきです。これら のトリガーの背景にある意図はアレルギー反応です。貴方の施設ではどの薬剤が該当します か?もしジフェンヒドララミンでなかったら、自院の医薬品集に存在する薬剤に、単純に新 しく変更してください(7 ページに参考リストがあります)。

Q:トリガーとして有用と思われるものがリストにありませんが、どうしてでしょうか?例えば プロタミン
A:GTT 開発の際、すべての有害事象に対応するありとあらゆるトリガーを含んだ、包括的なト リガーリストを開発することは、現実的でないことがわかっていました。そのようなツール は、診療記録レビューの途方もない時間がかかり、ほとんど使用不可能でしょう。頻繁に起 き、そして起きたときはほとんどが患者の被害の原因となる有害事象を基に、トリガーリス トは作成されました。

Q:GTT で診療記録レビューを完了する平均時間はどれぐらいですか?
A:経験を積んだレビュー者では平均10−15 分で、20 分を超えることはありません(米国の例)。 時間がかかっている場合には、レビュー者がただトリガーを見つけるのでなく、診療記録を読 み始めてしまっているのが通常です。日本における調査では平均10 分未満であった。20 分以 上要するケースもあるが、その場合「状況の詳細な把握と対策立案」を始めている場合が多い。

Q:GTT は我々のコンピューター・システムで自動化できますか?
A:トリガーの多くは簡単に情報システムから把握できます。特に与薬と検査値のトリガーに当 てはまります。これらを電子的に把握し、報告を生み出すことができる情報システムがあれ ば、レビュー時間が節約できます。すべてのトリガーについて自動化することは、現時点で 困難であるため、ある程度の診療記録レビューは必要とされるでしょう。

Q:GTT を使うことにより、実際に有害事象が減ったという事例がありますか? そこでは改善 事象をどのように把握し、その特定の問題に関連する有害事象の減少につながった対策をど のように行ったのですか?
A:GTT は測定ツールであり、有害事象発生率にはまったく影響を及ぼしません。おもしろい例 えを挙げましょう。毎日体重計に乗っても体重を減らすことはできません。まったく同じこと がGTT についても言えます。有害事象を測定することによってそれ自体を減らすことはでき ません。対策を実行する必要があります。 データが蓄積したらパレート図(ABC 分析)等を使って、事象を分類し(与薬、手術等)、 改善活動をどこから開始すべきか決定するのに役立てることができます。

Q: GTT が改善ツールではなく測定ツールであることは理解していますが、他施設ではGTT を 使うことで患者安全にどのような影響がありましたか?
A:GTT を用いることにより、組織改善の状況や資源を集中させるべき部門について情報が得ら れます。組織のベースラインを確定し、資源の配置そして経時的傾向を測定するためにツール を使うべきです。

Q:我々の施設では、GTT を定形化しようと考えています。はじめの20 冊の診療記録について だけ、2名のレビュー者によるレビューと1名の医師による承認を行えば良いのでしょうか? レビュー者2 名という要件は続けなくてはいけませんか?
A:常に、少なくとも2 名のレビュー者がそれぞれ診療記録のレビューを行うべきです。レビュ ー者はそれぞれ異なった事象を拾い上げます。レビュー者同士が結果を照合し、知りえた情 報をもとに意見を一致させ、その後、医師による最終確定を行うべきです。1 名によるレビ ューでは、有害事象の約75%しか捉えらない可能性があります。

Q:有害事象発生率のベースラインを確立するためにはどれぐらいの記録が必要なのですか?
A:2 週間毎に10 冊または1 ヶ月に20 冊の患者記録を無作為に抽出することを推奨します。こ れは小規模の無作為サンプルなので、ベースラインを確立するためには少なくとも12 のデー タを取得するための時点が必要です(6 か月分)。経験を積んだ組織では24 のデータ取得を推 奨しています。

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