研究の紹介

HDL受容体の同定と機能解析

High density lipoprotein (HDL)は末梢に余剰に蓄積したコレステロールを引き抜き肝臓へ転送します。この経路はコレステロール逆転送系と称され、生体に存在する抗動脈硬化メカニズムの一つです(図1)。
HDL受容体は長らく不明のままでありました。村尾がカリフォルニア大学留学時、ヒト遺伝子CLA-1/SR-BIに注目して研究をおこないました。CLA-1の遺伝子導入により、HDLへの結合、コレステロールの引き抜きを認め、世界で初めてヒトHDL受容体がCLA-1/SR-BIであることを報告しました(図2)。
動脈硬化だけでなく血管内皮機能にもHDL受容体が関与し、血管内皮細胞でのeNOSの活性化をおこなうことを報告しました。HDL受容体の調節機構として、高血糖状態がP38-MAPKを活性化し、転写因子SP-1をリクルートすることにより、肝臓におけるHDL受容体発現が低下することを報告してきました。さらに末梢細胞からのコレステロール転送をおこなうABCA1も高血糖で機能抑制されることも明らかにしました。
最近の研究では、HDL受容体が肝臓におけるC型肝炎ウイルス(HCV)の受容体であり、インターフェロンによりSTAT1-STAT2が活性化されCLA-1発現が低下し、C型肝炎ウイルス感染が防御されることを報告し、新たな治療ターゲットとしても注目されています。
以上の研究は、『High-density lipoprotein(HDL)受容体(scavenger receptor class BI/CLA-1)の同定および臨床的機能解析』の研究成果により、平成20年に第28回 日本内分泌学会研究奨励賞を受賞しました。中国四国地域では24年ぶりに2人目の受賞となりました。

図1
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図2
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HDL受容体のトランスレーショナルリサーチ

HDL受容体の機能を利用した先端医療として、HDL受容体遺伝子導入による動脈硬化症の治療を考案しています。 現在は脂質異常の治療により動脈硬化のリスクを軽減する予防的な治療が行われています。しかし積極的に動脈硬化病変を退縮させる治療は皆無です。
HDLは、動脈硬化病変よりコレステロール逆転送系を介して抗動脈硬化作用を発揮します。この経路の賦活することで動脈硬化を退縮させる治療を考案しました(図3)。

図3
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糖尿病におけるHDL代謝の役割

糖尿病の病態はインスリンの作用不足であり、進行した病態では膵β細胞からのインスリン合成/分泌不全が生じます。我々は膵β細胞におけるインスリン遺伝子転写、特にグルコース応答性に関して研究を進めてきました。
グルコース刺激におけるインスリン遺伝子転写の情報伝達系にCaMKK-CaMKIVの経路が関与することを明らかにし、またこの経路は糖毒性を仲介する経路でもありました。一方、グルコース依存性インスリン遺伝子発現を促進する新規の転写因子PREBを同定しました。転写因子PREB研究は、我々の研究室オリジナルであり、現在、PREBトランスジェニックマウスを作成し糖尿病での病態解析を進めています。 インスリン分泌不全に関しては、膵β細胞における糖毒性のみならず、脂肪毒性が重要です。HDL代謝を活性化するABCA1は、膵臓にも発現し、インスリン分泌に重要な役割を担っています(Diabetes 2004, Endocrinology 2004, Diabetologia 2006, J Cell Mol Med 2009, Diabetes Obes Metab 2009, Metabolsim 2011,Diabetes 2012)(図4)。
また糖尿病における脂質代謝異常にも肝臓におけるHDL代謝が関与することが判明しています。糖尿病によるHDL代謝異常で脂肪肝を発生するメカニズムが明らかになりつつあります(図5)。

図4
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図5
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医療ICTを駆使した糖尿病地域連携クリティカルパスの構築(図6)

香川県では糖尿病受療率が全国第2位であり、糖尿病死亡率も全国第5位で、糖尿病を含めた生活習慣病が社会問題となっています。平成21年度文部科学省特別教育研究経費(連携融合事業)において「医療ネットワークを駆使した糖尿病関連疾患に対する地域連携対策」の採択を受け、「香川大学医学部附属病院糖尿病センター」を設置しました。
香川大学医学部附属病院糖尿病センターが中心となり、糖尿病地域連携を各医師会で開催し、地域における非専門医・コメディカルのレベルアップ及び糖尿病連携パスの導入、普及活動を行っています。本事業では、本学の医療ネットワーク技術と糖尿病関連疾患治療の先導的拠点であることを背景に、香川県や香川県医師会を中心とした県内各医療機関と連携して、地域住民の糖尿病重症化を抑制し、患者の予後の改善を図ることを最終目標とする計画を立案してきました。
現在、糖尿病の地域医療連携は、大きな転換点を迎えつつあります。その背景には、糖尿病の細小血管合併症、とくに糖尿病性腎症による人工透析患者の増加や大血管合併症による心血管系合併症の増加があります。最優先の課題は、これまで構築してきた糖尿病の地域医療連携を基盤にして、地域ぐるみの糖尿病重症化防止機構の構築(疾病管理システム)を早期に軌道に乗せる事です。
これまで我々は、香川県全域に普及している医療ICT「かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX:Kagawa Medical Internet eXchange)」K-MIXを活用した「糖尿病地域連携クリティカルパス」を普及させてきました。我々は、次の段階として、これまでに構築した地域医療連携の基盤を活用して、重症化リスクの高い患者を専門的治療医療機関に集約し(地域トリアージ)、多職種協働のチーム医療により糖尿病の重症化防止を実践する疾病管理システムの構築を計画しています。
重症化リスクの高い患者を層別抽出するには、層別化のためのミニマムデータセットからなるICT化された患者データベース(疾病管理マップのデータ)の構築がきわめて有用です。最終的には地域住民の糖尿病患者数の減少及び糖尿病重症化防止を行い「次世代型糖尿病重症化抑制に対する活動モデル」を構築いたします。

図6-1
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図6-2
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図6-3
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図6-4
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海外共同研究者

Norman CW Wong (University of Calgary、カナダ)
Daniel Steinberg (University of California, San Diego), 1922-2015
Joseph L. Witztum (USCD, USA)
Gerard Waeber (CHUV,スイス)
Carter Bancroft (Mount Sinai School of Medicine, USA)