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香川大学医学部開講50周年記念特定基金

この場所で輝く ~現場の声とメッセージ~
2025.4.9
香川大学医学部
小児外科学 助教 藤井 喬之先生

1.普段どのような仕事をしていますか?
大学における主な業務は、臨床・教育・研究の3本柱です。香川大学の小児外科は比較的少人数であるため、小児外科手術に加え、外来診療、病棟管理、検査まで幅広く担当しています。また、学生の指導も重要な役割の一つです。できるだけ小児外科に興味を持ってもらえるよう心掛けるとともに、他の診療科を志している学生にも、医師として必要な知識をしっかり伝えたいと考えています。これらの仕事の合間を縫ってではありますが、臨床・基礎研究にも少しずつ取り組んでいます。現在、臨床研究支援センターの協力をいただきながら、リアルワールドデータを用いて周術期の予防的抗菌薬の必要性に関する研究を進めています。また、基礎研究として腸管不全と腸内細菌叢をテーマに研究を行っています。
 

2.なぜこの仕事を選びましたか?
医師である父の姿を見て育ったことが、大きな影響を与えました。また、医学は人間の本質に深く関わる人文的な側面を持つと同時に、科学とも密接に結びついた複雑な学問です。私はこの双方の特性に興味を持ち、医学の道を志しました。大学入学後はウインドサーフィン部に所属し、風が吹けば海に向かうほど熱中した日々を送りました。最終的にはチームとして九州山口医科学生大会で優勝し、大分国体にも出場することができました。この経験を通じて、地道な努力を積み重ねながら技術を磨くことの重要性を学び、外科系への関心が高まりました。さらに、5年次の臨床実習で小児の患者さんと接したことをきっかけに、小児医療に携わりたいという思いを強く抱くようになりました。
 
3.この仕事に惹かれた理由は何ですか?
医療は日々進歩しており、新たな予防法が開発され、多くの内科的治療が生まれています。しかし、残念ながら外科的治療が不可欠な疾患も多く存在します。また、成人外科ではがん治療が大きな割合を占めるのに対し、小児外科で扱う疾患の多くは良性です。そのため、単に病気を治すだけでなく、良好な機能を維持・向上させ、患者さんがこれからの長い人生を健やかに過ごせるよう支援することが求められます。これは非常に困難な課題である一方、大きなやりがいでもあります。また、他の小児外科の魅力は、治療を受けた子どもたちの成長を長期的に見守れることです。赤ちゃんの頃に手術を受けた患者さんが、外来で会うたびに立派に成長していく姿を見られるのは、この上ない喜びです。
 
4.今後の展望は何ですか?何を目指していますか?
第一に、小児外科医としてさらに研鑽を積むことです。日常的に遭遇しやすい疾患から、希少で難治性の疾患まで、それぞれに最善の医療を提供できるよう、学び続けていきたいと考えています。 第二に、実現は容易ではありませんが、いつか患者さんに還元できるような、意義のある研究に取り組みたいと思っています。 第三に、医学に関する啓蒙活動にも力を入れたいと考えています。具体的には、小児の精巣捻転という病気に関心を持っています。この病気は、発症から早期に治療を行わなければ、捻じれた精巣を救うことができません。しかし、医療従事者以外には認知度が低く、迅速な対応が求められるにもかかわらず、発見が遅れることが少なくありません。特に思春期の患者さんでは、恥ずかしさから受診が遅れ、その結果、精巣を摘出せざるを得ないケースもあります。正しい知識を広めることで、こうした事態を防ぎたいと考えています。  
 
5.この道(仕事)を目指す人にかけたい言葉は何ですか?
仕事は人生において大きな比重を占めるものです。せっかく働くなら、自分が本当に満足できる仕事を選ぶことが重要だと考えます。小児外科には、いまだ治療成績の向上が求められる難治性疾患が数多く存在します。だからこそ、この道を志す情熱あふれる人が増えてくれることを心から願っています。
 
6. 香川大学医学部の良いところを教えてください
自分のやりたいことを実現しやすく、気兼ねなく相談できる環境が整っている点です。臨床・研究のいずれにおいても、挑戦したいことや困難に直面した際に、分野を問わず多くの方々から支援を受けることができます。
 
7.これからの香川大学に求めることを教えてください
小児外科医の立場から申し上げると、香川大学には地域の周産期医療(産科・新生児医療)を維持・強化し、安心して出産・育児ができる環境を整える拠点病院としての役割が求められます。 また、少子化が進む中で、希少疾患に対する質の高い医療や小児医療を継続的に提供するため、AIやリアルワールドデータを活用した予防医療や診療支援の研究を推進することも重要です。 さらに、少子高齢化時代における地方医療の現状を中央へ発信し、政策に反映させる役割も果たすべきだと考えます。
 

<インタビューを終えて>
小児外科医としての使命感と探究心が伝わるインタビューでした。医療の進歩を見据えながら、一人ひとりの患者に最適な治療を提供しようとする姿勢、また、研究や教育にも力を注ぎ、未来の医療に貢献しようとする意欲に感銘を受けました。自身の経験を活かし、後進の指導や啓蒙活動にも取り組む姿からは、医療に対する深い責任感が伝わってきます。確固たる信念を持ち、誠実に医療と向き合う姿勢が印象的でした。