兵庫県南部の播磨町という明石市の西隣の町の出身で、小・中・高校時代は野球とTVゲームを満喫していました。親が一浪を許してくれたため、当時の香川医科大学に最後の入学生として来ることができました。香川大学医学部での6年間は主に軽音楽部で活動し、バンドのボーカルとして楽しく過ごしました。生活資金が奨学金で足りなかったため、家庭教師・塾・バー・居酒屋・ファストファッション大手などでバイトをしながら、各学年の試験を乗り越えていたのが懐かしいです。
2. なぜこの仕事を選びましたか?(偶然ですか?なりたかったですか?)
臨床実習で各科を回っている当時は、CTなどの画像をフィルムで読む時代でした。体内の情報がグレースケールで描き出されるフィルムを見るにつれ、次第に「キレイだな〜」と思うようになり、放射線科が第一候補になりました。実習を進めていくうちに「病棟にはがん患者さんが多く、がん治療のニーズが高そうだな〜」と感じるようになり、放射線科の中でもがん治療を主に行う放射線治療医を志すようになりました。
3. この仕事に惹かれた理由は何ですか?
がん患者さんの「根治」にも「緩和」にも貢献できるところです。多くのがんの根治には局所療法が必要で、最も市民権を得ているのは手術ですが、切除不能の病期で見つかるがんもめずらしくありません。「手術はできません」と言われて落ち込んでいる患者さんに「放射線治療で根治を目指せますよ」と励ましの言葉をかけられるところにまずは惹かれました。手術後に再発が起こり得るように、放射線治療で治らないことも当然ありますが、治った状態を維持できていることを患者さんにお伝えできる時は、特に「放射線治療医になってよかった」と思います。一方、根治を目指せないステージでがんの症状で困っている患者さんもおられます。まずは症状を和らげるために薬物療法が行われますが、骨や脳などの転移をはじめ、放射線治療が症状緩和に有効なこともあります。痛み止めの効果が乏しかった骨転移に放射線治療を行った後、「そういや最近、痛み止め飲んでないわ」と言ってもらえると、こちらも「放射線治療医になってよかった」と思います。しかもこの「根治」と「緩和」は若手医師でも達成できますので、キャリアの早い時期から患者さんに貢献できるのも魅力です。
4.今後の展望は何ですか?何を目指していますか?
幸いにも各種委員会参画のお誘いが増え、多施設で行う臨床研究の事務局を経験し、最近では研究代表者の機会もでてきました。自身がわかっていないことだけでなく、日本の同業者もわかっていないことについて、自身の意見を反映しながら、皆で協力して「わかっていないこと」を解明していく。この歯車が良い方向に回りだした感触がありますので、今後も一歩ずつ歩んでいければと思います。あと、少し前までは上の世代に引っ張り上げてもらっていましたが、最近は同世代の横の繋がりから新しいアイデアが生まれることが増えてきましたので、この勢いで進んでいきたいです。
5.モチベーションを持続している秘訣(いま輝いている秘訣)は何ですか?
いろんな偶然の積み重ねでしょうか。スティーブ・ジョブズのスピーチ『Connecting the dots』ではありませんが、何の気なしに発表した演題をきっかけに、点と点が繋がって話が大きくなっていく。その中で力を尽くしていたら、別の点と繋がるようになる。というのを繰り返しているうちに、自然とモチベーションが維持されてきたように思います。当然うまく行かない時期もありますが、その時は趣味の晩酌や運動の量を少し増やして、「(このつまずきは)将来になんか意味があるんやろうな〜、嫌やけど」と深く考えすぎないようにしています。
6.仕事で大切にしていることは何ですか?
最近、仲間の重要性をやっとわかってきました。前学長の最終講義で「くじけそうになった際に、乗り越えられたコツがあれば教えてください」と私が質問しましたところ、「仲間を大切にしてください」という旨のお言葉を頂戴しました。私は30代半ばまで自身で仕事を抱え込むタイプでしたが、40歳前後になり、内容・物量ともに自身単独では太刀打ちできない状況に直面する機会が増えるにつれ、そのお言葉の大切さを実感しています。自身のみでは、診られる患者さんの数・話をできる学生さんの数・研究アイデアの深さなど本当に限られていますので、医局員をはじめ、関係の先生方には感謝しかありません。
7.この道(仕事)を目指す人にかけたい言葉は何ですか?
医学は、どの領域に進んでも興味深く楽しいと思います。世の中わかっていないことだらけなので、「輝きたい」と思う人はぜひ医学を志していただき、香川大学医学部でその「わかっていないこと」を解明してもらえれば、卒業生としてありがたいです。特に放射線治療はわかっていないことだらけです。がん治療の三本柱ではありますが、手術・薬物療法と比べ放射線治療の人員は手薄です。ということは「輝きやすい」ということですので、興味のある方は是非お声がけください。
8. 香川大学医学部の良いところを教えてください
『この場所で輝く』という観点で申し上げると「輝きやすい」と思います。私の所属医局では他大学と比べ、おそらく5年くらい早期に上級の立場で仕事に取り組めました。これはタイムパフォーマンスの点でメリットと考えます。臨床については、放射線治療医として各種がんのカンファレンスに参加していますが、治療方針などについてフラットに議論できる土壌が醸成されていると感じます。研究においては、香川大学本部の研究戦略室・医学部の研究協力課・病院の臨床研究支援センターと連携できる点も強みだと思いますし、実際に大変お世話になっています。
9. これからの香川大学に求めることを教えてください
香川大学医学部の学生の頃から「讃岐の丘から世界に発信」というキャッチコピーに触れつづけ、当時はそれほど意識していませんでしたが、最近は自身の幹のように感じています。病院の方の「ささえる、つながる、リードする。」というフレーズも、徐々に自身に染み付いてきているように思います。香川大学の学生さんや若い職員の芯に届くような、気づいたら体現していたと思えるような何かがあれば良いでしょうか。私の世界がまだまだ狭く、その「何か」まで考えが及びませんが、今後も地域社会をリードできるように関係者へのサポートをお願いしたいと思います。
<インタビューを終えて>
インタビューを通じて、モチベーションの持続の秘訣について特に感銘を受けました。点と点がつながり、新たな展開が生まれ、その過程でさらに別の点とつながる——この連鎖が自然とモチベーションを維持する要因になっているという考え方が、とても印象的でした。努力を続ける中で次の可能性が見えてくるという姿勢が、挑戦を続けるエネルギーの源なのだと感じました。失敗や困難も将来につながるものとして前向きに捉える姿勢も素晴らしく、学ぶべき点が多いインタビューでした。
この場所で輝く ~現場の声とメッセージ~
2025.3.7
香川大学医学部附属病院 放射線治療科
学内講師 高橋 重雄先生
学内講師 高橋 重雄先生