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香川大学医学部開講50周年記念特定基金

この場所で輝く ~現場の声とメッセージ~
2025.4.17
香川大学医学部
衛生学 助教 鈴木 裕美先生

1.簡単な生い立ちなどを教えてください。(どこで生まれた、どんな学生だった、など)
神奈川県生まれで20歳まで育ちました。その後、ハワイ大学に編入、大学院を経て、夫の仕事の都合でブラジル、中国と20代はずっと海外で暮らしました。専業主婦をしながら3人の子育てをしましたが、医師になりたいと思い、37歳の時に香川大学医学部の2年後期に学士編入しました。医学部時代は最前列に座って一生懸命勉強しました。でも成績は医学英語以外、中の下かそれより下だったかもしれません。海外が好きだったので、子ども3人を東京から義母をよんで見てもらい、1か月タイで熱帯医学を学んだり、2か月イギリスのニューキャッスルに留学したりと楽しませてもらいました。

小学校にてこころのメンテナンスを講演しているところ。こころの状態を色水とコップを用いて説明

2.なぜこの仕事を選びましたか?
子育ては時に難しく、思い通りに行きません。子どもが3人いれば、スポーツが得意な子、音楽が好きな子、手先が器用な子、気を遣う子、友達付き合いが苦手な子、メンタルの強い子、不登校になる子、いじめられる子、うつ病になって高校を中退する子、悪さをして停学になる子、厳しい言動で親子関係が悪くなる子など様々です。親として豊かな経験をしました。現役で医師になる同級生の間で、これらの経験は大変ユニークだと思いましたし、絶対生かしたいと思いました。小児科医として得た医学知識や脳科学なども生かして、自分だからこそ伝えられること、できることをしたいと思って、今の仕事をしています。
 
3.普段どのような仕事をしていますか?
医学部の授業や実習、研究、研究会の企画運営、国際交流の仕事の他、臨床で生きづらい子どもと親を診ています。また地域の仕事として保護者や教育関係者に講演したり、相談をうけたり、子育てプログラムや不登校の親の会を開催、フリースペースの運営をしたりしています。本当は研究や論文執筆を頑張らないといけないんですが、地域の人が必要とする不登校の情報冊子なんかを助成金で作成したりしています。

県教委と2017年より毎月作成している子育ての読み物。全県の幼少中で配布中。

4.仕事の失敗談はありますか?
後期研修は大学病院の小児科病棟で行いました。私が小児科プログラムの第1期生だったんですが、何をやっても不器用だし、失敗ばかりでした。手技も後輩の方が上手でしたし、知識も足りないし、まったく頼りない先輩でした。自分は病棟勤務にまったく向いていない人間でしたね。ただ最近、当時の患者さんのお母さんに10年ぶりくらいに講演会なんかで会うことがあるんですよね。すると声をかけてくれて、「あの時の先生の言葉に救われた。お礼が言いたかった」って言ってくれるんです。ああ、医者の仕事は病気を治すだけじゃないんだなって改めて気づかされます。
 
5.仕事中にぶち当たった壁はありますか?どのように克服しましたか?
よく「置かれた場所で咲きなさい」と言いますが、私はまったくそう思いませんね。「咲ける場所を探しなさい、そして咲ける場所は必ずある」と思います。私は残念ながら小児科では咲けませんでしたが、今の場所で咲けていると思います。だからと言って、小児科時代が無駄だったわけではありません。今も小児科の先生方とは親しくさせて頂いていますし、一緒に仕事をすることもあります。特に日下先生はいつも私を気にかけ、背中を押してくださいます。衛生学の宮武先生は「鈴木先生が楽しく仕事ができることが一番だ」といつも温かく応援してくれます。徳田先生も私が困っている時にいつも駆けつけ、助けてくれます。今までのすべてのご縁に感謝です。無駄なことは何一つない。壁にぶち当たったときは、そう思っていますし、必ず誰かが手を差し伸べてくれます。その手を握り、感謝の気持ちをもつことが大事かなと思います。

6.仕事で大切にしていることは何ですか?
Passionです。やるべきことをただやるというのは楽しくありません。ですので、「○○のために○○したい」という熱い思い(passion)を必ず持つようにしています。たとえば、授業で医学生に母子保健について教えることがありますが、仕事だから教科書に沿って教えるというのは当然だけれどおもしろくない。でも「虐待をされた子どもを救うために、医学生に医師としてできることを伝えたい!」というpassionのもとに授業をすると俄然楽しくなるのです。この1時間で将来会う子どもの命が救われるかもしれないと思うと力が入りますね。

作成した不登校関連の情報冊子、子育てリーフレット、子育てカレンダー

7. 香川大学医学部の良いところを教えてください
学生や教員が新しいことにチャレンジするのを大学が応援してくれるところです。学生がカンボジアにトイレを作る活動をしたい、医学祭で医学部ラジオをやりたいと言ったときも大学が応援しました。また、私自身の子育て支援活動も三木町と香川大学の補助事業としてチャレンジさせてくれました。やる気のある人には温かく手を差し伸べて、応援してくれるところが香川大学の良いところです。
 
8.これからの香川大学に求めることを教えてください
香川はとても住みやすく居心地のいいところです。だから香川にいたい、外に行きたくないという学生も多いようです。でも私は学生も教員も海外にどんどん行って、様々なチャレンジができるといいなと思います。そのために教員にはサバティカルの制度がほしいですし、学生も海外での活動が単位になる制度があるといいと思います。


<インタビューを終えて>
エネルギーと情熱に心を打たれました。どんな環境にあっても、自分が咲ける場所を探し、そこで輝くという生き方は本当に素敵で、自分もそんな風に在りたいと強く感じました。 子育てや海外での経験を、今のご活動にしっかりとつなげられている姿に、深い学びと勇気をいただきました。何事にも真摯に向き合い、passionを大切にされている姿勢にも感銘を受け、自分自身の歩み方を見つめ直す機会にもなりました。素晴らしいお話をありがとうございました。