小児薬物療法検討会議 報告書案:アシクロビル

4.国内での使用実態

    1) 新生児

  • 新生児単純ヘルペス感染症に対するACV静注療法に関する国内の使用状況について、森島ら43)の新生児ヘルペスの全国調査では、出生1万人に対して0.7の発症頻度と報告されている。日本の出生数は2004年で112万1000人であり、これより計算すると年間78人程度の発症になると考えられる。 なお、新生児単純ヘルペス感染症に対するACV静注療法に関する他の国内文献報告については3.(2)の項に示した。
  • 2) 小児

  • 小児の国内における使用実態として、本項ではグラクソ・スミスクライン社(GSK社)により実施されたACV注射剤(ゾビラックス点滴静注用250)、ACV経口製剤(ゾビラックス錠200、同錠400、同顆粒40%)に関する製造販売後調査より小児(15歳未満)使用例の結果を示した。

    ・ACV注射剤

  • 単純疱疹、帯状疱疹:単純疱疹87例(平均一日投与量19.7mg/kg/日(15.2-42.8mg/kg/日))および帯状疱疹103例(平均一日投与量20.2mg/kg/日(15.1-44.1mg/kg/日))の合計190例で通常用量(5mg/kg×3回/日(15mg/kg/日))を超える用量(高用量)が使用されていた。副作用は、7例12件(腹痛・下痢、肝機能異常・GOT上昇・GPT上昇、頭痛、下痢、GOT上昇・GPT上昇、白血球減少、蛋白尿・糖尿)でみられた。有効性は92.6%(175/189例)であった。また、これら190例のうち10mg/kg×3回/日(30mg/kg/日)を超える用量は単純疱疹3例、帯状疱疹2例(このうち1例は8.7 mg/kg×4回/日(34.8 mg/kg/日))で使用されていた(最高用量14.7mg/kg×3回/日)が、副作用はなく、有効率は80.0%(4/5例)であった。 HSV,VZVに起因する脳炎・髄膜炎:12例で通常用量(10mg/kg×3回/日(30mg/kg/日))を超える用量(高用量)が使用されていた(最高用量14.3mg/kg×3回/日)。副作用は1例5件(肝機能異常、GOT上昇、GPT上昇、LDH上昇、貧血)にみられた。有効率は83.3%(10/12)であった。
  • ・ACV経口製剤

  • 単純疱疹:小児HSV感染症に対するACV経口剤(錠剤または顆粒剤)の使用例については既に多数の報告があり、それらの代表的なものは前項に示したため、GSK社による使用成績調査のまとめは割愛するが、使用成績調査においても公表された文献等と同様に安全性上の問題は認められていない。 骨髄移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制:113例(平均一日投与量0.82g(0.3-1.6g))の使用状況が確認されており、副作用はみられなかった。有効性においては、1例で発症が認められたが、112例において発症が抑制された。 帯状疱疹:錠剤85例(平均一日投与量2.5g/日(0.4-4.0g/日))および顆粒剤21例(平均一日投与量4.3g/kg/日(0.8-10.0 g/kg/日))の合計106例の使用状況が確認されており、副作用は4例6件(トリグリセライド高値、GOT上昇・GPT上昇、胃痛、嘔吐・発熱)にみられた。有効率は98.1%(103/105例)であった。  以上のように国内での使用実態において概ね有効にかつ安全に使用されていることが示された。
  • 引用文献

  • 43. 森島ら. 日本小児科学会雑誌 1989; 93: 1990-1995
  •  

5.有効性の総合評価
  •  単純疱疹、骨髄移植における単純ヘルペスウイルス感染症、帯状疱疹および性器ヘルペスなどのHSV、VZV感染症は成人/小児の区別なく発症する疾患であることから、成人に有する適応に関しては小児においても医療上の必要性が高い。このようなHSV、VZV感染症に対するACV関連製剤の有用性については、これまで成人において十分検証され、広く認知されているところであり、小児においても文献等において否定的な情報はなく、すべてHSV、VZVに対する有効性が示されている。なお、効能・効果における「骨髄移植」の記述表現については、現時点でのより適切な用語として、「造血幹細胞移植」と記載することが適切であると考えられる。 また、アシクロビル注射剤の用法・用量については、本邦の承認用量では重症もしくは新生児のHSV感染症の有効率が50〜70%程度と十分な効果が得られない症例も存在することが示されており、高用量(7.5〜15mg/kg)を投与した場合により強い抗ウイルス効果が得られることが示唆されている。また、新生児単純ヘルペスに対しては、60mg/kg/日の3分割(8時間毎)の21日間投与の効果と、以前に行われた30mg/kg/日の3分割(8時間毎)の10日間投与の効果との比較がなされ、全身型の生存率は前者でより有効であった。よって、致命的になりうる新生児単純ヘルペスウイルス感染症、免疫機能の低下した患者に発症した単純疱疹・水痘・帯状疱疹、脳炎・髄膜炎においては、最高1回20 mg/kgまでの増量が認められるべきである。
6.安全性の総合評価
  • 本邦において小児で承認されている経口ACV関連製剤のうち、曝露量(AUC)が最も高くなるものは水痘に対するVACVの投与である。小児水痘の臨床試験においては、43例中2例(4.7%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められたものの、概して良好な忍容性であったと報告されていることから、安全性上の大きな問題はないものと考えられる。また、小児水痘の製造販売後使用成績調査においても特に安全性上の懸念は認められていない。このため、今回提案したACV経口剤の用法・用量における安全性については、VACVの小児水痘の安全性データによって担保されるものと考えられ、成人と比べても新たな安全性上の懸念はないと考える。 一方、ACV注射剤については、これまでの2倍量(60mg/kg/日の3分割)までを新たな最大用量として提案した。小児におけるBMT時のCMV発症抑制に関する報告においては、今回ACV静脈内投与の用量として提案した用量と同等の高用量(500mg/m2×3回)が用いられているが、有害事象の報告は曝露量の低い経口ACV 800mg1日4回投与群と差はなく、腎への影響も含めてこのレジメにおける安全性への懸念は記載されていない。新生児では、一部で1000/mm3以下の好中球減少症が報告されているが、投与持続や中止後に改善することが多く、重大な転帰には至っていない。また、本邦において60mg/kg/日を40日間使用した新生児例では、好中球減少などの副作用は起こらなかったと報告されている。 以上のことから、成人が有するACV経口剤の効能・効果を小児に拡大し、ACV注射剤の最大用量を増加するにあたり、安全性上の特段の問題はないと判断した。ただし、新生児は腎機能が未熟でAUCinfが小児よりも高くなるため、20mg/kgの静脈内投与では腎機能障害や好中球抑制に十分な留意が必要になる。しかし、投与量が少ないことで十分な治療効果が得られず、新生児ヘルペスの治療時期を逸して後遺症が生じる事を避けるためには新生児においても20mg/kg 1日3回の投与は重要で必要な治療用量である。そのため、現在の添付文書中の使用上の注意の慎重投与の項の「小児[「小児等への投与」の項参照]」、及び小児等への投与の項の「小児に対しては、必要最小限の使用にとどめるなど慎重に投与すること。特に、新生児、低出生体重児に対する安全性は確立していないので、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。」の記載は削除すべきである。
7.用法・用量の妥当性

    アシクロビル注射剤

  • 1) 新生児単純ヘルペスウイルス感染症
     「新生児単純ヘルペス感染症」においても致死的で重篤な疾患であることから、強力な抗ウイルス療法が必要である。国外の報告から、新生児単純ヘルペス感染症に対する30mg/kg/日の有効性と安全性が示され、「3.」項に記載したように全身型の新生児単純ヘルペスウイルス感染症において高用量(60mg/kg/日)投与での生存率の改善が報告されており、これらの報告に基づき、新生児においても、フランスの添付文書、教科書、ガイドライン等において20mg/kgの1日3回投与が広く推奨されている。新生児は腎機能が未熟でAUCinfが小児よりも高くなることから、20mg/kgの静脈内投与では腎機能障害や好中球抑制に十分な留意が必要になる。しかし、投与量が少ないことで新生児ヘルペスの治療時期を逸したり、後遺症が生じる事を避けるために最高20mg/kg 1日3回の投与は新生児において重要で必要な治療用法・用量である。  なお、日本人と欧米人の小児におけるPK比較は実施されていないが、成人においては日本人と欧米人の間でPKの類似性が示されていること44)、また公表文献等においても特に小児のPKにおける人種差を示唆するものはないことから、日本人小児に対して海外と同じ用量を適用することは妥当であると考える。 2) 単純ヘルペスウイルス及び水痘・帯状疱疹ウイルスに起因する脳炎・髄膜炎   重篤な症状から強力な抗ウイルス療法が必要である。このため、海外ではアシクロビル注射剤が最高20mg/kg 1日3回の用法・用量で用いられ、教科書、ガイドライン等で広く推奨されている。小児の薬物動態特性から、小児(生後6ヵ月〜7歳程度)に20mg/kgを静脈内投与した時のAUCinfは成人に10mg/kgを投与した時の1.5倍程度となる。しかし、その安全性は「6.」に示したように、AUCinfの低いACV 800mg 1日4回の経口投与と同様と考えられ、20mg/kgの静脈内投与によっても新たな安全性上の懸念は生じないと考えられる。したがって、小児において十分な臨床効果を得るために新たに最高20mg/kgまでの用量が必要である。
  • アシクロビル経口剤

  •  VACVの小児水痘効能追加申請の申請資料概要45)に、薬効ともっとも相関する薬物動態パラメータはAUC24hr(1日AUC、AUCinf×1日投与回数)であると示されていることから、新たに追加する各種の適応症においては十分なAUC24hr値となって十分な薬効が得られる投与量が望ましい。このことより、最も高いAUC24hrが得られる「小児水痘の用法・用量(ACV:20mg/kg 1日4回)」を新たに追加するすべての適応症に用いることが適切と考えられる。これらの用法・用量での水痘における使用経験はすでに十分蓄積されており、安全性上の新たな懸念は生じない。また、ACVに対する感受性は、水痘の起因ウイルスであるVZVよりも HSVにおいて高いことから、VZVのみならずHSVに起因する各種の適応症においても十分な臨床効果が得られると考えられる。
  • 引用文献

  • 44. VACV申請資料 [グラクソ・スミスクライン社内資料]
    45. VACVの小児水痘効能追加申請の申請資料概要 「http://www.info.pmda.go.jp/shinyaku/g070401/index.html」
8.国内使用実態調査の必要性
  • 海外の使用実績および十分な有効性・安全性のエビデンスが整っていると考えられるため、新たに国内使用実態調査を実施する必要はない。なお、新生児ヘルペス感染症については、現在日本未熟児新生児学会にて稀少疾患サーベイランスを実施中である。