小児薬物療法検討会議 報告書案:アシクロビル

1.医療上の必要性について
  • (各薬剤に対する適応症における既存の用法・用量変更の必要性について)
    • アシクロビル注射剤
    • 1) 新生児単純ヘルペスウイルス感染症

    • 新生児単純ヘルペスウイルス感染症は適切な治療がなされないと致死的もしくは後遺症を残すことの多い疾患である。米・英・独・仏ではアシクロビル(以下、ACV)注射剤に本効能が既承認であり、積極的に治療に用いられている。米・英・独における用量は10mg/kg×3回/日であるが、中枢神経型や全身型においては20mg/kg×3回/日の高用量の使用で予後が改善されることが示されており、仏での添付文書や成書における投与量の記載も、20mg/kg×3回/日が推奨されている。なお、腎機能障害や好中球抑制に十分に留意することが必要である。
    • 2) 免疫機能の低下した患者(悪性腫瘍・自己免疫疾患など)に発症した単純疱疹・水痘・帯状疱疹

    •  ACV注射剤は、主に免疫機能の低下した患者における単純疱疹・水痘・帯状疱疹などの治療に供されている。特に癌化学療法など高度に免疫低下をきたす症例ではヘルペスウイルス感染症を発症することにより、癌化学療法の継続が困難になることもある。これらを発症した場合には早期に、ACV注射剤による強力な抗ウイルス療法が必要である。このため、海外ではアシクロビル注射剤が小児に対して最高20mg/kg×3回/日の用法・用量で用いられ、教科書、ガイドライン等で広く推奨されている。本邦でも小児において十分な臨床効果を得るために新たに最高20mg/kg×3回/日までの用量が必要である。 3)単純ヘルペスウイルス及び水痘・帯状疱疹ウイルスに起因する脳炎・髄膜炎 ACV注射剤は単純ヘルペスウイルス(以下、HSV)・水痘・帯状疱疹ウイルス(以下、VZV)由来の脳炎・髄膜炎の治療に用いられる。脳炎・髄膜炎は致死率が約70%と高く生存例でも半数近くに重い後遺症を残すため、早期にACV注射剤による強力な抗ウイルス療法が必要である。このため、海外ではアシクロビル注射剤が小児に対して最高20mg/kg×3回/日の用法・用量で用いられ、教科書、ガイドライン等で広く推奨されている。したがって、本邦でも小児において十分な臨床効果を得るために新たに最高20mg/kg×3回/日までの用量が必要である。
    • アシクロビル経口剤
    • 以下にあげる疾患・病型の治療には、通常ACV経口剤が用いられる。
    • 1) 単純疱疹(HSV)

    • 小児における代表的な病型である歯肉口内炎は、口唇や口腔粘膜に小水疱が多発し、発熱や全身倦怠感を伴う。痛みのため摂食障害や脱水を伴うなど重症感の強い病型であり、治療が必要である。ACVの投与が標準的な治療になっており、小児用量を設定しておくべきである。
    • 2) 造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制

    • 造血幹細胞移植前後は高度の免疫抑制状態となるため、日和見感染症としてのHSV感染症の発症をACV投与により抑制することが必要であり、小児用量を設定すべきである。
    • 3) 帯状疱疹(VZV)

    • 健康小児の帯状疱疹は軽症であるといわれるが、眼合併症などが危惧される場合には、失明などのリスクを考慮して成人と同様にACVによる治療を適正に行えるようにしておくべきである。
    • 4) 性器ヘルペスの再発抑制

    • 性感染症(STI)の低年齢化が危惧される昨今、感染し再発を繰り返した場合の正常な日常活動の確保という観点から、13〜15歳の中学生に対しても標準的な治療法である再発抑制療法を適正に行えるようにしておくべきである。