運営委員長ご挨拶

 子どもに薬物治療を行う際には年齢に応じて、用法・用量、適切な有効性の評価指標、副作用等に配慮が必要となります。小児臨床薬理学(発達薬理学)はまさにこれらに科学的根拠を与えることを目指すものであり、新生児から思春期までの幅広い年齢層における「薬物治療最適化のための研究」及び「その科学的結果を活用した薬物治療実践」のための学問です。小児薬物治療に係わるあらゆる専門領域の小児科医・薬剤師や薬学研究者にとって必須の学問と言えるでしょう。発達による生理学的変化がもっとも顕著に現れる小児では、その薬物動態や薬力学の詳細が解明されていないことも多く、新しい研究を開拓できる可能性も多い魅力的な分野であると考えています。年齢に応じた剤形への配慮が必要な点なども、小児独特といえるでしょう。

 世界的に見ても「小児臨床薬理学」に焦点を絞った専門学会は少なく、私の知る限りでは欧州のEuropean Society for Developmental Perinatal and Pediatric Pharmacology (ESDPPP: http://www.esdppp.org/site/)と当学会のみで、米国でもアメリカ臨床薬理学会の一部門として活動している状況です。先輩方が切り開いてこられたこのような貴重な学会活動を更に発展させることが出来るよう、学会員の皆様と努力していきたいと考えております。

 本学会の起源は、「発達薬理学およびその関連領域の研究の進歩とその普及をはかり、小児の健康とその福祉に寄与すること」を精神に、昭和49年に旭川医科大学小児科吉岡一教授が開催された「発達薬理学シンポジウム」に遡ります。その後は毎年開催され、第13回から日本小児科学会の分科会として認められ、名称も「発達薬理・薬物治療研究会」となり、第14回より会誌が年1回刊行されております。平成2年度に事務局が熊本大学小児科の松田一郎教授のもとに移り、平成7年度より香川医科大学小児科に受け継がれました。運営委員長は初代の吉岡一教授より、事務局の移管に伴い松田一郎教授、さらに香川医科大学の大西鐘壽教授、平成17年度より伊藤進教授、そして平成26年度からは事務局を香川大学小児科に引き続きお願いした形で、私が引き継がせていただいております。そして平成7年9月29日開催の運営委員会において日本小児臨床薬理学会(英語名、Japan Society of Developmental Pharmacology and Therapeutics, Jpn S Dev Pharmacol Ther)と名称変更されました。

 学術集会は年1回開催されており、小児科領域において唯一の「小児薬物治療に焦点を当てた、職種及び専門診療科を越えた学会」として、薬物治療学、臨床薬理学、臨床薬学、薬剤疫学、レギュラトリーサイエンス等の観点から、小児科領域の各種疾患において使用される医薬品についての医学・薬学的な検討、医薬品評価・開発の推進、適応外使用問題・未承認薬問題解決、医学・薬学教育などに取り組んでまいりました。さら に、平成24年度からは、日本薬剤師研修センターと共に、小児薬物療法認定薬剤師制度(http://www.jpec.or.jp/nintei/shouni/)を立ち上げ、「小児科領域において医薬品に関わる専門的立場から医療チームの一員として小児薬物療法に参画するための能力と適性を備え、さらに患児とその保護者等に対しても適切な助言および行動ができる薬剤師の養成」を目的として、教育・研修及び認定を行っており、これを受けて学術集会においても薬剤師と医師の意見交換・交流を目的として、さまざまなテーマにおいて発表・議論が進められています。

 学会雑誌は年1回刊行されており、学術集会で発表された内容を中心に掲載が行われてきましたが、最近は一般投稿も増えつつあります。学術集会の一般講演の内容も含め、投稿論文は査読制度により原著として掲載されております。本雑誌への投稿は日本小児科学会専門医制度及びに小児薬物療法認定薬剤師制度の認定単位付与の対象となります。また平成19年度からは、45歳未満の研究者の原著論文に対して「大西記念小児臨床薬理学会賞」の選考と表彰を行っています。是非多くの皆様に投稿いただけますと幸いです。

 欧米では小児薬物治療の重要性についての認識が高まっており、小児のみならず新生児領域に至るまで、適切な医薬品評価と薬物治療の推進のための活動が活発に行われ、法令の整備等も進んでいます。さらに医薬品評価の方法論の検討、検査値の標準化、データの共有、稀少疾病の医薬品開発等についての、国際連携の動きも加速しつつあります。今後は、このような国際連携を進める上でも本学会の役割は重要になっていくものと感じております。是非、多くの皆様に本学会の活動に参加いただき、我が国及び世界の小児薬物治療の質の向上のために活動いただけることを願っております。

平成28年4月28日 運営委員長 中村 秀文


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