おすすめ書籍 Bibliophilia
自己の軸や豊かな人間性は、人類が遺してきた「文学」を土台にして発展していきます。古今東西の名著には偉大なる人の人生が凝縮して描かれており、喜びや楽しみ、苦しみ、悲しみ、辛さといった、多種多様な心に触れることができるのです。
読む人によって、その心を理解できることもあれば、理解できないこともありますが、読書を通じて自分と向き合うことで、見える世界がどんどん広がります。心に響く言葉や登場人物との真の出会いが財産となって、皆さんを人間性豊かな看護師として成長させてくれるでしょう。
数多くの本のうち、どの1冊があなたの世界を変えてくれるかは分かりません。だからこそ、多くの本を手に取って頂きたいと思います。精神看護学は、人間の心という奥深い世界に触れる、答えのない領域です。難しいからこそ面白く、実践する看護者自身の生き方や人間的魅力が、ケアに反映されていくのです。皆さんに、学生の間に是非、手に取ってみて頂きたい教室員お勧めの書籍を紹介していきたいと思います。
「甘え」の構造
出版年:1971年初版・2007年増補普及版
著者:土井健郎
出版社:弘文堂
甘えること・甘えられること、二者の関係性のあり方とは
人に甘えたいという気持ちは自然なものだと思います。甘えたり、甘えられたり、人との関係性の中で、意識的に、または無意識的に行っている方も多いでしょう。誰でも知っているこの「甘え」という言葉を、精神医学の観点から学術的に、その構造を明らかにしているのが本書です。
蔵本
生きるとは、自分の物語をつくること
出版年:2011年
著者:小川洋子・河合隼雄
出版社:新潮文庫
人生の物語に寄り添うケアとは
目指す看護師像を尋ねられて、患者さんに寄り添うことのできる看護師をあげる学生は多い。人それぞれの寄り添い方があるだろうが、寄り添うということは、自己存在のあり方が丸ごと問われることでもある。生きづらさを抱える他者に対して、どのように自己存在を差し出せば良いのか、女性作家と心理療法家の対談を集録した本書は、このような問いを持つ者に優しく語りかけてくれる。
小説家 小川洋子氏の経験から発せられる疑問と、臨床心理学の巨匠 河合隼雄先生の飾らない発言が再現された貴重な記録は、学術書が苦手な学生にとっても親近感を持って読み進められる生きた教科書となる。例えば、ある人への関わりの例を取り上げてみたい。不登校の子が、次は学校に行くと言い、それは嬉しい、よかったというやりとりが何度もあった後、やっぱり行けないということがあったら、どう対応するかと言った対話がなされる。そのような時、自分が子ども側だったら、どう寄り添ってもらいたいだろうか。
“もし、「でも行けるよ」っていうたら、行けなかった悲しみを僕は受けとめてないことになる”、“望みを失わずにピッタリ傍におれたら、もう完璧なんです。だけど、それがどんなに難しいか”
このような語りに触れた読者は、大ベテランの心理療法家の謙虚さに感服しつつ、「傍にいること」、「寄り添うこと」の奥深さを垣間見る思いがするのではないだろうか。私たちの日常においても、友人に悩みを打ち明けられ、何とか役立ちたいと心を傾けて関わり、今度こそは、という変化への期待を持つことがある。それに反した現実を知ると、悲しみや虚しさ、無力感などが湧き起こったり、ある時は、もどかしさや苛立ちを通り越して、怒りや腹立ちなどの感情が生じるかもしれない。これらの感情は、相手に寄り添うこととは異なるが、それでも懸命に真剣に関わったからこその反応でもある。どうすれば、悲しみを受けとめる包容力や、失望しないで伴走する根気強さを養えるのだろうか。「物語」をめぐる二人の対話も見逃せない。
河合氏は心理療法においては、“人が自分の物語を発見し、自分の物語を生きていけるような「場」を提供”しており、小川氏は“小説を書いている時は、どこか見えない暗い世界にずうっと降りて行くと言う感覚がある”という。そして、この小説家の降りて行く体験は、患者の悩みに付き添ってどこまでも下へ降りて行くことと“ほとんど一緒ではないか”と河合氏もまた同意する。しかし、この「物語」という共通項において、二人には決定的な相違点があった。それは、主人公を通して創造していく営みが小説であるのに対して、心理療法では、対象となる目の前の人の話を聴いて、“その人自身が何かを作るのを待っている”のであり、“自分では何も作らない”という点である。生身の相手を前にする私たちは、対象を信じること、対象のペースに合わせること、そして、決して援助者側のペースや目的に強引に引き寄せようとせず、援助者が上に立つようなことがあってはならないことを教えられる。
小川氏は、人間は物語を持つことによって初めて、身体と精神、外界と内界、意識と無意識を結びつけ、自分を一つに統合できると述べる。生活史に関心を寄せながら想像力を働かせて耳を傾け、感情移入することを恐れずに、自分に寄り添おうとしてくれる他者を得た時、人は自分の物語を生きる力を取り戻せるのではないだろうか。看護者が心病む人の傍にいることの意味を見つめていきたい。
渡邉
夏日烈烈―二つの魂の語らい―
出版年:2018年
著者:執行草舟・佐堀暢也
出版社:講談社エディトリアル
精神医学に関心を寄せる医学生と思索家との縦横無尽な対談本
現役医学生と思索家が本音でぶつかり、歯に衣着せない物言いが、そのまま惜しげもなく活字にされている。内容について現代科学の観点からは、賛否両論あるだろうが、そこが本書の最大の魅力であり、医療に携わる者にとっても、様々な意味で刺激的な一冊と言えるだろう。
渡邉
記憶のつくりかた
出版年:1998年
著者:長田弘
出版社:晶文社
自分を形作るのは、自分の中に積み重なった数多の記憶である
例えていうなら、お洒落な喫茶店で友人と待ち合わせしている間にも読むことができる、また、そうしてみたい気分にさせてくれる素敵な短編エッセイがぎっしり詰まっている。読後のさわやかな余韻の中で、自分の人生の一つ一つの出来事を、本当に大切にするとはどういうことかを考えさせられ、その後の友人との会話も、何かしら、いつもと違った形で記憶に残りそうだ。
渡邉
孤高のリアリズム—戸嶋靖昌の芸術—
出版年:2016年
著者:執行草舟
出版社:講談社エディトリアル
自らの志に生き切った芸術家の、魂とその愛を垣間見る
人生に於いて自らの生き方を貫くことは容易ではないが、自らの魂を直に生き切った芸術家-戸嶋靖昌の生は、我々に静かなる感化を与える。戸嶋芸術の哲学には、人間の持つ自然治癒力への信頼と、魂の響きを感じ取る鋭い直感力が感じられる。戸嶋の観察眼、本質に迫る力、対象に向けられる眼差しなど、生命に対峙する姿勢にはひれ伏すのみだ。
渡邉
映画:ショーシャンクの空に
公開年:1994年
監督・脚本:フランク・ダラボン
出演者:ティム・ロビンス、モーガン・フリーマンなど
長期の管理された生活から起こる問題と希望を持ち続けることで得られるもの
※以下、映画のあらすじに触れているため、先に視聴されることをお勧めする。本作は、刑務所内の人間関係を通して、冤罪によって投獄された有能な銀行員(アンディ)が、腐敗した刑務所の中でも希望を捨てず生き抜いていくヒューマン・ドラマである。
蔵本
ストレス対処力SOC
出版年:2019年
編集:山崎喜比古・戸ヶ里泰典・坂野純子
出版社:有信堂高文社
「わかる」「できる」「意味がある」でストレスフルな社会を健康に生きる
「メンタルヘルス」という言葉を聞いたことがない人はいない、というくらい、精神の健康に関する問題は身近な問題となりました。ストレスフルなこの社会の中では、「ストレスにどう対処するか」つまり、ストレス対処力SOC(Sense of Coherence:首尾一貫感覚)がメンタルヘルスを左右する鍵と言えます。
蔵本
精神科ナースになったわけ
出版年:2017年
著者:水谷緑
出版社:イースト・プレス
患者の行動には意味がある。それに気づくと精神看護は面白い!
私が最初に精神疾患を持つ方と関わったのは、看護学生の時です。実習で、同級生と二人で保護室入室中の統合失調症の女性Aさんを受け持ちましたが、Aさんは柵の向こうでひたすらでんぐり返しをされていました。何かしないと!と二人で声をかけ続けていると「うざったいのよ、あんた達!!」と言われてしまい、途方に暮れているうちに2週間の実習は終わりました。何が何だかよく分からなかった、というのが当時の正直な感想です。
蔵本
精神科ナースのアセスメント&プランニングbooks 精神科身体ケア
出版年:2017年
監修:一般社団法人日本精神科看護協会
出版社:中央法規出版
精神科は精神のことだけみればいい?
2015年の日本精神科看護協会の調査では、治療・看護を要する身体合併症を有する患者の割合は31.5%とされています。今後高齢化の進展に伴い、さらにその割合は増加することが予測されます。精神科だから精神疾患だけをみればいいのではなく、身体合併症に関する知識も不可欠なのです。
蔵本
まんが やってみたくなるオープンダイアローグ
出版年:2021年
著者:齋藤環・水谷縁
出版社:医学書院
対話を継続するために対話を行うことで、自分のことも見えてくる
精神科領域で近年注目されている治療法の一つに「オープンダイアローグopen dialogue」がある。直訳すると「開かれた対話」であり、フィンランド発祥の治療法である。最初に当事者が自分の話をし、一段落したところで治療者同士が当事者の前で、自分はどう感じたかを話し合う(リフレクティング)を繰り返していく。
蔵本
夜しか開かない精神科診療所
出版年:2019年
著者:片上徹也
出版社:河出書房新書
「夜しか開かない=夜に開いている」必要な人に届く精神科医療
日中は勤務医として精神科病院で働き、夜はクリニックで働く。ハードな生活であることは間違いないが、本の中からは楽しそうな雰囲気が伝わってきた。「働いている人は診察を受けられないし、精神科にかかっていることを他人に知られたくない場合も多い。だから、仕事終わりの時間に寄れて、人目につきにくい隠れ家みたいな病院があれば、救われる人はきっと多いはず」との思いから、大阪ミナミのアメリカ村で夜19時から23時までの精神科診療所「アウルクリニック」を開院した。様々な背景を持つ患者が、それぞれの事情を抱えて来院している。
蔵本
我と汝
出版年:1979年
著者:マルティン・ブーバー 訳:植田重雄
出版社:岩波書店
患者との一期一会の出会いを通して「われ-なんじ」の関係構築を考える
世界は人間のとる態度によって「われ-それ」「われ-なんじ」の二つになるとされます。対象を「それ」として見るか、「なんじ」として出会えるかの違いは何でしょうか。本文中には、“もしわれわれが道を歩いていて、われわれの方に向かってやって来るひとに出合ったならば、われわれはただ自己の道程のことだけしか知らず、出合ったひとの道程は知り得ない。
蔵本