内分泌学実習の目的と背景


[ 目 的 ]

 内分泌学は、生化学、生理学、化学、物理学など様々な研究方法から成り立っている。本内分泌学実習では、ホルモンや発生研究に多く用いられるアフリカツメガエル(Xenopus laevis)を用いて、性ホルモン、ゴナドトロピンやアドレナリンの及ぼす作用を生化学的に調べる。また、ホルモン作用をin vivoで観察するとともに、生化学で一般的に用いられる技術を学び、実験動物の取り扱いに慣れることがこの実習の目的である。


[ 背 景 ](実習に用いるホルモンと解析するタンパク質)

・エストロゲン
 エストロゲン(estrogen)はステロイドホルモンの一種であり、ヒトにおいては女性の第二次性徴や妊娠、出産などの生殖機能をはじめ、骨代謝や心血管系の機能調節にも重要な役割を果たすと考えられている。両生類、魚類、鳥類では卵黄形成(vitellogenesis)に重要なホルモンであることが知られている。
 エストロゲン受容体(estrogen receptor, ER)はステロイドホルモン、甲状腺ホルモンなどの疎水性ホルモンに対する核内受容体スーパーファミリーの一員である。エストロゲンは細胞膜を自由に通過し、細胞内でERと結合した後、標的DNAと結合してその下流にある遺伝子の転写を促進する。これにより発現する種々の蛋白質が、エストロゲンによって生じる様々な生理現象を司っていると考えられている。


・ゴナドトロピン
 ゴナドトロピン(gonadotropin, 性腺刺激ホルモン)は生殖腺の活動を刺激するホルモンの総称である。脊椎動物では下垂体前葉から分泌される濾胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が主である。哺乳類の胎盤からもゴナドトロピンが分泌されており,その代表的なものはヒト絨毛膜性性腺刺激ホルモン(HCG)と妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG)である。


・アドレナリン
 アドレナリン(adrenline, エピネフリン; epinephrine)は副腎髄質から産生されるカテコールアミンである。通常、副腎髄質から分泌されるアドレナリンの量はわずかであるが、恐れなどのような激しい情動反応がおこると多量のアドレナリンが分泌される。アドレナリンの作用はアドレナリン受容体( or )を介し、の場合は収縮をの場合は弛緩を主に引き起こす。全体的な作用はアドレナリン量、受容体量、さらには親和性の強弱などの総和によって決まる。


ビテロジェニンの発現と卵黄形成
 両生類や魚類、鳥類の卵には卵黄蛋白質であるビテロジェニン(vitellogenin)が大量に蓄積されている。ビテロジェニンは肝臓で合成されてから卵巣に運ばれ、可溶性のホスビチン(phosvitin)と不溶性のリポビテリン(lipovitellin)に分解され、卵母細胞に蓄えられる。このときエストロゲンの作用で赤血球も破壊され、ヘムが分解してできるビリベルジンがビテロジェニンに結合する。ビリベルジンは青色を呈するので、実験ではビテロジェニンの有無を目視で確認することができる。
 ビテロジェニン遺伝子は常染色体に存在しているので、雌雄ともに保持しているが、正常な発現は成熟した雌だけに限られる。しかしエストロゲンを与えてビテロジェニン遺伝子の発現を強制的に誘導すると、雌ではビテロジェニンが卵巣内の卵母細胞に運ばれ貯蔵されるが、雄では血管内に高濃度に蓄積する。この実験から、性徴の発現がホルモンに依存していることをうかがい知ることができる。アフリカツメガエルではエストロゲンに応答するビテロジェニン遺伝子が4個あることが報告されており、それぞれアミノ酸配列や分子量、エストロゲン応答性などが異なっている。


 ビテロジェニンの構成



・レクチン
 レクチン(lectin)は植物(ヒマの実)抽出液中に存在する赤血球を凝集させる物質として最初に見出された。レクチンは「酵素や抗体を除く多価の糖結合性蛋白質」と定義されてきたが、酵素活性を持つものなど多くの例外が見出されており、通常はより広い意味での糖鎖結合蛋白質と解釈されている。レクチンは様々な生理作用を示すが、これとは別に、その糖鎖結合能を利用したアフィニティー精製/標識にも利用される。
本実習ではアガロースビーズにラクトースを固定化した担体を用いることにより、-D-ガラクトシドに特異的に結合する、ツメガエル皮膚由来レクチン(ガレクチン; galectin)のアフィニティー精製を行う。

 
               

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