脳腫瘍

脳腫瘍とは頭蓋内にできた新生物の名称です。脳それ自体からだけではなく、脳を包んでいる髄膜や下垂体、脳神経などのあらゆる組織から発生します。様々な分類の仕方がありますが、ここでは大きく良性・悪性という分け方でご紹介し、また、小児期における脳腫瘍についてもご紹介いたします。

良性脳腫瘍

良性脳腫瘍は、急激な増大や転移をすることは稀である点が悪性脳腫瘍との大きな違いとなります。一般に全摘出ができれば、その後の予後は良い腫瘍です。

治療方法は、従来から行われている開頭での腫瘍摘出術のほかにも、近年ではガンマナイフなどの定位放射線治療も盛んに行われるようになってきており、手術方法の発達や機器の開発によって治療成績は向上しています。開頭での手術では、手術用の顕微鏡を用いて行いますが、その際にナビゲーションシステムや神経モニタリングといった技術を積極的に併用しており、腫瘍近傍の神経機能温存を目的とした手術がより安全に可能となっています。また、各種画像検査の結果から、腫瘍の種類、部位、サイズなどを十分に考慮した上で、定位放射線治療を行うことで腫瘍の成長や病態をある程度コントロールすることも可能となってきております。

MRIの普及により、とても小さな段階でも発見されることが多くなりましたが、治療方法は腫瘍の種類や部位、成長速度などによって異なり、手術や放射線治療が必ずしも必要ではなく、外来通院などで定期的にMRIやCTを見ながら経過をしばらく見ることを選択されることもあります。

原発性脳腫瘍のうち、良性腫瘍の占める割合は6割~7割といわれています。その中でも頻度の高い髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫について以下に説明します。

髄膜腫

脳を包む髄膜から発生する(正確にはくも膜顆粒を構成するくも膜細胞から発生すると考えられている)腫瘍です。硬膜に付着し、ゆっくりと発生する腫瘍です。ほとんどが良性脳腫瘍(WHO分類GradeⅠ)ですが、一部の髄膜腫にやや悪性度の高いものもあります(WHO分類GradeⅡ~Ⅲ)。原発性脳腫瘍の約26%を占める良性腫瘍では最も頻度の高い腫瘍であり、成人に多く、ほとんどが30歳以降に発生し、女性に比較的多い腫瘍です。

小さいうちは無症状なことが多いですが、大きくなってくると、周囲の脳や脳神経を圧迫することで症状を呈してきます。これらの症状は髄膜腫が生じた部位により異なりますが、脳の圧迫による局所症状として、運動麻痺や言語障害、感覚障害、視野障害、高次機能障害、痙攣発作を呈し、脳神経への圧迫症状として、視力障害や聴力障害、顔面麻痺、嚥下障害などを呈することがあります。また、腫瘍が非常に大きくなると頭蓋内圧亢進症状(頭痛、嘔気、視力障害、意識障害)を示すようになります。

サイズの小さなものや無症状かつ経過中にもサイズ増大を示さないようなタイプは、経過観察となることが多いです。しかし、すでに前述のような症状を呈しているものや、あるいは無症状でもサイズの大きいものや増大傾向を示すものについては外科的治療適応となります。

治療は、手術による腫瘍摘出が有効であり、腫瘍が発生した硬膜ごと摘出することで根治が望めます。発生部位によっては根治的な手術が困難なことがあり、術後にガンマナイフなどの定位的放射線治療を併用することがあります。摘出術後の再発は、手術での摘出具合や腫瘍の病理組織所見によって異なります。腫瘍の肉眼的全摘出の上で、腫瘍周囲の硬膜や骨の処置もできた場合や、画像上で腫瘍が全く見られなくなったような場合での再発率は10年間で数%程度といわれています。ただ、2%ほどの髄膜腫には組織学的悪性所見を示すものがあり注意が必要です。

円蓋部髄膜腫.gif 案結節部髄膜腫.gif

下垂体線種

下垂体はホルモンを分泌の中枢であり、全身の臓器に働きかけてホルモン分泌の調整を行うところです。頭の正中部(真ん中)にあるトルコ鞍という頭蓋骨のくぼみの中に存在しています。下垂体腺腫はこの下垂体の一部が腫瘍化した良性腫瘍です。原発性脳腫瘍の約18%を占めており、20~50歳の成人に好発し、女性にやや頻度の高い腫瘍です。また、腫瘍の性格としてホルモンの過剰分泌を示すホルモン産生性下垂体腺腫と、ホルモン非産生性下垂体腺腫に大別されます。

ホルモン非産生性下垂体腺腫の場合、腫瘍が大きくなることによって視神経の圧迫や正常下垂体の圧迫をきたすことにより、視力・視野障害、下垂体機能低下症、頭痛を呈して発見されることが多いです。典型的には、視野障害は両耳側半盲を示し、下垂体機能障害では性機能の低下や月経不順をきたします。

一方、ホルモン産生性下垂体腺腫の場合は前述の症状に加え、周囲の組織を圧迫しないような小さいもの、中にはMRI上でもはっきりしないような小さなものでも、腫瘍が過剰分泌するホルモンにより症状を呈することがあります。ホルモンにはプロラクチン、成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモンがあります。頻度が多いのはプロラクチン、成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモンを産生するタイプです。プロラクチン産生性下垂体腺腫は、女性では月経不順や無月経、乳汁分泌を呈し、男性では性欲低下や勃起不全をきたします。女性に比べ男性は症状が気付かれないことが多く、発見時には腫瘍が大きくなっていることが多いです。成長ホルモン産生性下垂体腺腫は、小児期に発症すると身長や四肢が過剰に大きくなってしまう下垂体性巨人症となり、成人後に発症すると手袋や靴のサイズが年々大きくなるとか、眼窩上縁や下顎が突出増大する先端巨大症を呈します。また、高血圧や糖尿病を惹起することもあります。副腎皮質刺激ホルモン産生性下垂体腺腫はクッシング病をきたします。副腎からコルチゾールというホルモンの分泌を促し、満月様顔貌や中心性肥満、高血圧、月経異常などを呈します。

さらに、下垂体腺腫は「下垂体卒中」といって急に腫瘍内出血や梗塞を来たし、突然の頭痛や視力障害、眼球運動障害をきたすことがあります。この場合は、早急な手術が必要となることがあります。

大きなものでは頭部レントゲンでのトルコ鞍の変形やCTにて発見されます。小さな腺腫にはMRIが有効です。また、内分泌検査(ホルモン検査)も必要であり、ホルモンを産生するタイプかどうか、下垂体の機能不全がないか調べる必要があります。

下垂体腺腫.gif

ホルモン非産生性下垂体腺腫の場合、症状がなく、かつサイズの小さなものについては経過観察が選択されます。一方、腫瘍が大きく、視神経や周りの組織を圧迫・障害している場合には手術による腫瘍摘出術が行なわれます。有効な薬物治療は現在のところありません。以前の手術法は、顕微鏡下経蝶形骨洞手術(いわゆるHardy法)というもので、口唇下または鼻腔より副鼻腔(蝶骨洞)を経てトルコ鞍底へ到達し腫瘍摘出を行っていました。近年では、神経内視鏡を用いた内視鏡下経鼻的経蝶形骨洞手術を第一選択として行っております。顕微鏡での手術と比べて、より小さな切開でより広い視野が得られることから摘出率が向上し、より安全・より低侵襲な治療が実現しております。近年では内視鏡治療の進歩が目覚ましく、ある程度大きな腫瘍でも内視鏡単独で治療(頭蓋底拡大内視鏡手術)を行っておりますが、腫瘍が極端に大きい場合には、内視鏡手術と顕微鏡手術(開頭術)を一期的ないし二期的に行うこともあります。また、場合により放射線治療を選択することもあります。

ホルモン産生性下垂体腺腫の場合、手術以外に薬物治療が有効なことがあります。とくにプロラクチン産生下垂体腺腫の場合は、ブロモプリクチン、カバサールといった内服薬が有効なことが多く、第一選択になることが多いです。これらの薬物が無効な場合や、薬の副作用(嘔気など)により定期内服が困難な場合、また出産を予定し薬物治療の弊害が考えられる場合などには手術が考慮されます。成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン産生性下垂体腺腫の場合は手術が第一選択となります。術後に残存腫瘍を認めた場合やホルモン値が正常化しない場合には、ときに追加で薬物療法や定位放射線治療が行われます。

※間脳や下垂体部の脳腫瘍は、下垂体ホルモンや視床下部ホルモンの分泌に影響を与えるので、内分泌内科との連携した治療が必要です。下垂体腺腫や同部位にできる頭蓋咽頭腫などは、手術以外に内分泌学的な治療の併用が不可欠であるため、当院内分泌内科と連携して治療にあたっています。

聴神経鞘腫

脳神経の神経線維を包む細胞(シュワン細胞)より発生する良性腫瘍です。原発性脳腫瘍約10%を占めており、30~70歳の成人に多く、やや女性に多い良性腫瘍です。聴神経より発生することがほとんどですので、ここでは聴神経鞘腫についてお話しします。なお、聴神経は前庭神経と蝸牛神経からなり、腫瘍は前庭神経より発生することが多いため、前庭神経鞘腫とも呼ばれることもあります。

症状は他人の言葉が聞き取りにくいといった聴力障害から発症することが多く、また耳鳴りをよく伴います。腫瘍が大きくなってくると、周囲の脳神経への圧迫症状が出現し、顔面神経圧迫による顔面筋麻痺や三叉神経麻痺による顔面の感覚障害をきたしたり、小脳の圧迫にて小脳失調症状や眼振を認めたりするようになります。また、非常に大きくなってくると髄液の流れを障害するため、閉塞性水頭症による頭蓋内圧亢進症状を呈することもあります。

診断にはMRIが有効ですが、他には耳鼻科的な聴力検査や平衡機能検査が行われます。

聴神経腫瘍.jpg

治療は、手術と定位的放射線治療があります。サイズの小さなものについては経過観察も選択肢の1つです。サイズが3cmを超えるものについては定位的放射線治療では困難であり、開頭での摘出手術が選択されます。手術では全摘出することで治癒が得られます。ただし、手術に際には、顔面神経(顔面筋)や蝸牛神経(聴力)の機能温存が非常に重要な問題となります。そのため、術中に顔面神経モニタリングや聴性脳幹反応、蝸牛神経モニタリングなどの神経モニタリングを行いうことで、神経機能の温存を目指したより安全な手術が可能となります。近年の手術技術の進歩やモニタリングを用いた手術によって、全摘出率、神経温存率ともに成績は向上しています。またガンマナイフなどの定位的放射線治療が行われることも増えています。腫瘍がすぐに消失することはないですが、腫瘍縮小や増大抑制効果の良好な成績が報告されるようになっており、顔面神経障害や聴力障害の発生は少ないとされています。手術、放射線治療のいずれを選択するかについては、そのときの腫瘍の状態によって適応を考えていますが、それぞれの治療のメリット・デメリットを十分に考慮した上で、医師と患者様・ご家族様との相談で決めることとなります。

放射線治療ができるガンマナイフ装置は、現在日本国内に限られた数しかありませんが、当科の関連病院である岡村一心堂病院(岡山県)に設置しているため、スムーズに行うことができます。また、ご希望に応じて、もみのき病院(高知県)にもご紹介しております。

悪性脳腫瘍

悪性脳腫瘍に分類されるものでも頻度の多い、悪性神経膠腫(グリオーマ)、悪性リンパ腫、胚細胞性腫瘍につき以下に説明します。

悪性神経膠腫

脳の中から発生する腫瘍で神経細胞を支えている神経膠細胞(グリア)から発生する腫瘍を神経膠腫(グリオーマ)といい、さらにいくつかの種類に分かれます。その中でも最も予後の悪い膠芽腫という腫瘍は、原発性脳腫瘍の9%、成人神経膠腫の32%であり、40歳以上の成人の大脳半球に好発します。

脳腫瘍は頭蓋骨に囲まれた脳組織内に発生するため、さまざまな症状が認められます。膠芽腫をはじめ神経膠腫は正常脳組織内を浸潤性に急速に発育するため、腫瘍増大とともに脳損傷の程度が強くなり、発生部位によって、運動麻痺や言語障害、感覚障害、視野障害、高次機能障害などが出現します。さらに腫瘍周囲の脳が浮腫をきたし、脳全体の大きさが増大しますが、頭は頭蓋骨で容積が決まっているため、頭蓋内圧亢進症状が認められます。症状なく経過していても、腫瘍内出血やけいれん発作のために病態が急変することがあります。

脳腫瘍は頭蓋骨に囲まれた脳組織内に発生するため、さまざまな症状が認められます。膠芽腫をはじめ神経膠腫は正常脳組織内を浸潤性に急速に発育するため、腫瘍増大とともに脳損傷の程度が強くなり、発生部位によって、運動麻痺や言語障害、感覚障害、視野障害、高次機能障害などが出現します。さらに腫瘍周囲の脳が浮腫をきたし、脳全体の大きさが増大しますが、頭は頭蓋骨で容積が決まっているため、頭蓋内圧亢進症状が認められます。症状なく経過していても、腫瘍内出血やけいれん発作のために病態が急変することがあります。

通常、CTやMRIで発見され、造影剤投与にて増強効果が認められ、嚢胞形成も認められます。PETでは、最も一般的なFDGのほかにFLT、MET、FMISOなどをトレーサーに用いており、腫瘍細胞内にそれぞれ取り込まれますが、その具合によって鑑別診断を行います。脳血管撮影では、その豊富な血管造成を背景として動静脈シャントや腫瘍濃染像が認められることが多いです。

治療法は、開頭での腫瘍摘出手術、抗がん剤投与による化学療法、放射線治療といった集学的治療が必要となります。腫瘍細胞はその塊の周囲の正常脳組織内にも浸潤性に(あたかも砂場に垂らした水滴のように)広がっていくため、全摘出を目指そうとすると高い確率で術後に新たな神経症状が出現・悪化します。そのため、手術においては安全な範囲で脳腫瘍組織をできるだけ切除すること(maximal safe resection)で頭蓋内圧を軽減させることと、摘出した腫瘍組織の病理組織診断を得ることをコンセプトとしおります。より安全な摘出および神経機能温存のために、手術用顕微鏡と連動するナビゲーションシステムや各種神経モニタリングを利用したり、場合によっては覚醒下手術も併用したりしています。また、摘出した腫瘍の組織診断によって、適切な追加治療が可能になります。

当院では、これらの治療に加えて、薬剤耐性遺伝子解析によるテーラーメイド治療を取り入れています。

悪性神経膠腫.gif 悪性神経膠腫PET.gif

悪性リンパ腫

中枢神経系原発悪性リンパ腫 (primary central nervous system lymphoma; PCNSL) は、中枢神経系組織から発生する悪性リンパ腫です。全脳腫瘍の~約3%で、近年は増加傾向が見られます。45~74歳に好発し、男性にやや多いとされています。

症状は、腫瘍の発生部位や大きさにより異なりますが、初発症状として最も多いのは運動麻痺や感覚障害などの局所症状ですが、頭蓋内圧亢進症状、精神症状が認められることも少なくありません。

手術により病理診断を行い、悪性リンパ腫であれば、化学療法、放射線療法を追加します。中枢神経系の悪性リンパ腫に対しては、メソトレキサート大量療法が有効と考えられています。これを3~5クール行います。治療の効き具合をみて、その他の化学療法も追加されることがあります。放射線治療は化学療法後に行われます。

悪性リンパ腫.gif

胚細胞性腫瘍

胚細胞性腫瘍は、始原生殖細胞を起源として発生する腫瘍であり、主として小児期と青年期に生殖器(精巣、卵巣)と体中心線にあたる部位、すなわち縦隔、後腹膜、松果体、神経下垂体部などに好発します。分類は、ジャーミノーマ、奇形腫、悪性奇形腫、胎児性腫、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌などがあり、その頻度は、原発性脳腫瘍の2.8%、14歳以下の小児例では全原発性脳腫瘍の約10%であります。好発部位は、松果体や鞍上部です.

臨床症状は、松果体部では中脳水道閉塞による閉塞性水頭症を併発して、頭痛、嘔吐、軽度の意識障害で初発することが多いとされています。鞍上部では尿崩症による多飲・多尿で発症することが多いですが、視交叉を障害することも多いため、視力・視野障害を合併することも稀ではありません。

胚細胞性腫瘍の診断において血清および髄液中のαフェトプロテイン(AFP)とヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)-βサブユニットの測定が重要であり、これにより術前診断が可能となる場合があります。画像診断はMRIで行いますが、病理像がさまざまであるため、一定ではありません。組織によって、予後良好群、中間群、不良群に分けられ、それぞれに、手術による組織診断を適切に行い、化学療法、放射線療法を行います。予後良好群では、10年生存率80~90%が期待されます。

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小児脳腫瘍

小児脳腫瘍は、比較的稀ですが、その治療方針は複雑で、標準的治療が確立されていない腫瘍型も多くあります。特に髄芽腫や胚細胞性腫瘍などは、手術だけではなく放射線療法や化学療法などの集学的治療が必要です。特に低年齢の場合、放射線療法の障害を受けやすいので化学療法が重要な役割を占めています。末梢血幹細胞輸血による大量化学療法を行うこともあります。治療方針についても、小児科及び放射線科、脳神経外科で十分検討して行っています。実際の治療は、手術の前後を除けば小児科病棟で行い、院内学級にも通いながら治療が可能です。

髄芽腫

主に小児の小脳に好発する悪性脳腫瘍です。腫瘍は小脳の正中部(虫部)を中心に発生し、第四脳室および両側小脳半球に浸潤する傾向にあります。症状は髄液の流れが障害されて水頭症を生じ、早朝に強い頭痛や嘔吐、意識障害などで発症することが多いです。小脳の障害による体幹失調(よく転ぶ)および眼球運動障害も認められます。CTやMRIを撮影すると、小脳の正中部に比較的境界明瞭な腫瘍が造影剤で均一に強く造影されます。

髄芽腫に対する一般的な治療は、顕微鏡手術下に腫瘍をできるだけ摘出し、術後に化学療法と放射線療法を行うことです。化学療法と放射線療法などは、小児科及び放射線科、脳神経外科で十分検討して行われます。

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