ごあいさつ

私たちが医学生に望むこと

 「格物致知(かくぶつちち)」-物事の本質をよく理解し、自らの知識を極限まで深めること 医師・医学研究者を目指す者は、学生時代のみならず生涯に亘り継続して自ら学ぶことが求められます。医学だけでなく幅広い分野の知識を修得して、論理力の涵養に努めて下さい。論理力は、与えられた課題に対峙し自ら考える時の素地となるものです。大学生としての知の論拠となるのが論理力です。これが生涯を通じての学びの基盤となるのです。個人の能力は論理力に顕著に顕れると云っても過言ではないでしょう。医学を含め様々な領域における学習方法に王道などあろうはずはありません。試行錯誤を繰りし、もがいて自分自身の学習スタイルを早く確立し、生涯に亘って実践できる能力を身につけて下さい。 ヒトの体の構造と機能は、医学の道途に就いた者が必ず修めなければならない礎となる知識です。医学部での学びは高校生までのそれとは全く違います。成書を読み込み最新文献や講義で、生命活動やヒトの構造・機能の本質を理解することに心血を注いで下さい。生命の基本原理や本質の理解は、暗記などの表層的な理解とは次元を異にし、既知の知識を基に未知の現象を理論立てて洞察する力に繋がっていきます。医学生の諸君には、千々の知識の糸を縦横無尽に結び付ける力を以て、分子から症状までの広いスパンを双方向にかつ自在に見通せる視座を身につけてくれることを望みます。

 


私たちの知的好奇心が向かうところ

 科学がこれ程進歩した今日にあっても、脳の高度な機能や病態・病因など、分からないことに溢れています。私たちは、脳が如何に高次機能を獲得していくかを発達の観点から深く掘り下げて研究しています。ヒト脳の発達は、胎生早期から始まり生後数年に亘って続きます。しかも、厳密にプログラムされたタイムスケジュールに則り、各領域が同時進行で完成します。この過程でのストレス曝露が成長後の脳機能や代謝に及ぼす影響についての知を明らかにしようとしています。脳は代謝に関わる末梢の関連臓器(肝臓・筋肉・脂肪等)を統合する中心的役割を果たしていることが明らかになりつつあります。私たちの研究は、ストレスによる脳機能の歪と精神神経発達障害や生活習慣病の発症機序についての知見を得ることを目標にしています。これは奇しくも現代の世相を反映する社会問題を科学の視点から解決の糸口を探ろうとするもので、今後目の離せない研究分野とも云えます。 私たちは脳の機能について全てのことを自然科学の目で明らかにしたいとは思っていません。ヒトがヒトの脳の機能やそこから発する精神や心について明らかにするにはあまりにも課題が遠大であるからです。これらを理解するには、脳の機能を物質の動きで語る神経科学だけでなく、哲学・文学・心理学分野など多方面からのアプローチは必須です。目に見えるもの(物質)で考察するだけでなく、目には見えない深い思索を巡らせなければ観えてこないものが共同して脳機能や精神・心の要義に迫ることこそ、神様が私たちに与えて下さった課題と考えています。ここに人の精神性が生まれ、ヒトの人たる所以があるのかもしれません。そういう点を重要視したスタンスで研究を進めています。