研究紹介

精神科診療シミュレーターの研究・開発

精神科診療シミュレーター

 IT技術を精神科分野に活用する試みの一つとして、模擬診療シミュレーターを開発しています。近年、身体的疾患をシミュレートする教材は増えてまいりましたが、精神科的疾患の診療を体験できるシミュレーターはまだ少ないという現状があります。そこで、医学教育用教材として、精神科の診療シミュレータを開発しています。その有効性を検証しながら、さらに改良をすすめています。

AI手法を活用した病院ビッグデータの活用

病院ビッグデータ

 病院の電子カルテに蓄積されたデータから診療に有効な情報を取り出し活用する方法を研究しています。非構造化された膨大なデータをコンピュータで分析可能な状態にするために自然言語処理を行い、そのなかから精神科疾患に関連づけられる特徴を抽出し、それが新たな患者にも当てはまるかを検証しています。非侵襲的で簡単に安価に精神科疾患を検出する方法を開発しています。

血液脳関門破綻と脳神経疾患との関連
ー小動物用MRIとてんかんモデル動物ー

 血液脳関門(BBB)は脳内恒常性を維持するために血液中の分子の脳内移行を厳密に制御し、免疫担当細胞や病原体などによる有害作用から脳を保護するための重要な機能を有しています。近年、てんかんをはじめとする様々な中枢神経疾患の病態生理にBBBが深く関与していることが報告されています。そこでBBBに着目してんかんの病態を解明すべく研究をすすめています。
 BBB研究は、BBB不透過の小さい分子である色素(エバンスブルー、トリパンブルーなど)を静脈内投与し脳実質内へ漏出するかを観察することによりBBBの損傷状態を評価してきました。しかし、従来の研究手法では動物一個体ごとに時空間的にBBB損傷を評価することは不可能です。これらの問題を解決するために、我々は小動物用1.5テスラMRI(DSファーマバイオメディカル社、図1)を用いた撮像法であるガドリニウム造影T1強調画像(GdET1WI)によってBBB透過性変化を非侵襲的・時空間的に評価する方法を確立しました。血管内に投与したGdは通常BBBを透過することはできません。しかしBBBが損傷すると、脳実質内にGdが漏出しT1WIで高信号を呈します。つまり、その高信号部位がBBBの破綻領域を示しています。これまでに我々はGdET1WIを用い、全般発作モデル動物による実験において全般発作時に一過性のBBB障害を確認しました(Brain Res. 2013 Sep 12;1530:44-53)(図2)。
 このように、我々が確立した造影MRI法を用いることは非常に独創的です。小動物用MRIを用いることで同一個体から非侵襲条件下で脳の形態学的・機能生理学的変化を時空間的に観察でき、かつ従来の実験法に比べ最少使用動物数で実験できることは、動物愛護の観点からも大きな利点の一つとなります。更にMRIは臨床現場でも広く用いられている検査機器であり、用いる造影剤も一般臨床で使用しているものであるため、臨床応用も比較的スムースに行うことができます。
 他の精神神経疾患においても、BBB破綻と病態生理との関連を解明するため研究を続けています。特にアルツハイマー病モデル動物においてもてんかんモデル動物と同様にBBB破綻が確認されています。これらの研究は、BBB破綻と病態解明につながると共に、新たな治療薬の開発においても重要なターゲットとなり得るため非常に有用です。

小動物用1.5テスラMRI

図1 DSファーマバイオメディカル社の永久磁石を使用した1.5T小動物用MRI装置
(徳島文理大学香川薬学部薬物治療学教室が所有する小動物用MRI装置を用いて共同研究を行っています)

BBB障害
PTZ      なし          あり

図2 全般発作モデルマウスのGdET1WI(ブレグマより-2.9mm)
(ペンチレンテトラゾール(PTZ)を投与された全般発作誘発マウスはGdET1WIにて脳実質が高信号となり(図2bの矢印部分)BBB透過性が亢進していることが確認されました)

抗認知症薬の定量脳波に関する研究

 人口の高齢化に伴い認知症患者数は増加の一途をたどっており、認知症に対する治療法の確立は今後ますます重要になってくると考えられます。現在、日本では4剤の抗認知症薬が使用されています。「A薬は活動性をあげる」、「B薬は精神症状を安定させる」など、実地の臨床医の経験に基づいた報告はあるものの、これらの抗認知症薬間の臨床的な効果の違いは今もはっきりしていません。薬物の作用プロフィールを調べる手段の一つとして脳波によって得られる電気生理学的活動を解析する手法があります。当講座では抗認知症薬が脳波に及ぼす影響について研究を行っています。脳波測定には侵襲性がなく、簡便に脳活動を測定できるという利点があります。近年デジタル脳波計が普及し、脳波を定量的に分析することが容易になりました。先行研究により、アルツハイマー病患者にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬を投与すると、δ波、θ波が減少し、α波が増加することが報告されています。一方で、メマンチンを投与したときの脳波への影響についての報告は極めて少数であり、あまりよくわかっていません。そのため当講座ではアルツハイマー病患者にメマンチンを投与したときの脳波上の変化について、解明を目指しています。脳波の定量解析にはLORETA解析やmicrostate解析などの手法があり、これらの手法を用いて海外の研究機関とも連携して研究を行っています。