基礎研究

蛋白質と骨形成

2枚の写真を提示します。
左側の写真では、骨が紫色に染まっており、茶色の部分は蛋白質Xがある部位を示しています。蛋白質は生体内で重要な働きをする物質ですが、病気の原因にもなりえます。蛋白質の一つ(蛋白質X)を茶色く染めて、目に見えるようにしたのが左の写真になります。
右側の写真では、緑色の蛍光を発している部分に注目してください。緑色の部分では骨形成が盛んに行われていることを示しています。
あらためて、左右の写真を見比べてみてください。蛋白質X(左の写真)は骨形成(右の写真)と関係があるのでしょうか。

われわれ脊椎グループは、このように機能(蛋白質や骨形成)を見えるようにすることで、骨の病気について考えています。病気のメカニズムを解明することで、多くの患者様のQuality of lifeの維持に貢献することが我々の目標です。

股関節疾患の病態解明

股関節・大腿骨領域の疾患について骨代謝をテーマとし現在以下の研究を主に行っております。手術の際に不要となる骨組織を調査し、その病態の解明に努めています。病態生理を解明することで未来の治療に役立つように研究をしています。骨吸収抑制型の骨粗鬆症治療薬の長期投与に伴う副作用として非定型大腿骨骨折が注目を集めています。当科では以前の研究で非定型大腿骨骨折は微細な骨損傷(マイクロダメージ)の蓄積による疲労骨折であることを証明しています。現在は更に発生機序の詳細なメカニズムの解明と骨折発生の予防を目標に研究を行っています。

特発性膝骨壊死の病態解明

近年、特発性膝骨壊死は骨脆弱性を基盤としたinsufficiency fractureであるとする説が有力視されつつある。膝骨壊死における関節面陥没は軟骨下骨の破綻の結果起こると考えられ、それは軟骨下骨海綿骨における微小骨折や骨微細損傷の蓄積が引き起こすと考えられる。そこで膝骨壊死病変部の海綿骨における骨微細損傷の蓄積を定量化し、変形性膝関節症や正常膝(屍体より採取)のデータと比較し特発性膝骨壊死の病態解明につなげている。

骨形成の促進

レシピエントの生体内で移植同種骨に血管柄を導入することで血管柄付き同種骨をprefabricateする研究を行っています。
血管束を移植骨内にflow-throughで通すことで骨形成が促進されるのですが、さらに促進させるためにいろいろな薬剤を添加し、骨形成を評価してより有効な薬剤を検証しています。
現在行っている研究はVEGFを使用しています。VEGFは血管形成における重要な成長因子として知られるており、血管新生を介して骨再生を促進する報告があります。持続的な効果を得られるようにVEGFを除放化する目的でスポンジ状人工骨(HAp/Col)に添加しこれをprefabricateした血管柄付同種骨に充填する方法を行っています。骨形成、血管新生、骨吸収について遺伝子的解析、組織学的解析をおこなっており、Hap/colを使用したVEGFの添加は有用であることが確認できました。今後は骨欠損部に移植した際の骨癒合能力や移植骨のサイズの限界についての検討を進めていきたいと考えています。

オートファジー阻害薬、熱ショックタンパク室阻害薬による抗腫瘍効果

骨軟部肉腫に対する治療薬は既存の化学療法に代わって悪性腫瘍増殖因子の分子標的治療薬に注目が集まっている。我々は腫瘍増殖にかかわる伝達経路であるmTOR経路やMAPK経路の活性に深く関連しているHSP90の阻害剤による抗腫瘍効果を、骨肉腫細胞株を用いて分子生化学的に検証し、そのメカニズムについて研究している。2剤の併用により、腫瘍細胞をアポトーシスに誘導する過程においてオートファジーが誘導する抵抗性を制御することにより抗腫瘍効果の増強およびアポトーシス誘導効果の増強が得られることを検証し、臨床応用の可能性を探っている。

骨肉腫に対する抗腫瘍薬とオートファジー阻害剤併用による治療

オートファジーは饑餓などのストレス暴露下で生存促進機構として働くことはよく知られている。最近の多くの報告で、癌細胞は抗腫瘍薬に暴露されるとオートファジーにより細胞障害に抵抗し、自らの増殖を促進することが明らかになってきている。クロロキンはオートファジー阻害剤として抗腫瘍薬と併用することで、その効果が促進されることが期待されている。骨肉腫株において、抗癌剤とオートファジーの併用で抗腫瘍効果が増強されるか検討している。