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神経外傷

頭部外傷とは

頭部外傷とは、頭部に何らかの外力が加わり、皮膚、皮下組織、頭蓋骨、頭蓋内構造物などに損傷が起こることをいいます。擦り傷や軽いたんこぶ(皮下血腫)で済むものから急いで処置しないと生命に関わるものまでを含む幅広い概念です。重症度は加わった外力の大きさや部位、損傷具合、年齢、既往薬(特に抗血栓薬という所謂"血をさらさらにする薬")など、さまざまな要因が影響します。

頭部外傷においては、受傷直後~急性期の迅速診断・治療が特に重要であることは言うまでもありません。しかし、しばらく時間が経過した慢性期においても注意すべき病態があり、有名なものでは慢性硬膜下血腫というものがあります。また近年、頭部外傷後慢性期にさまざまな程度で発症する高次脳機能障害にも注目が集まっており、当院では高次脳機能外来も設けて診療にあたっております。

ここでは比較的頻度の高い急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、慢性硬膜下血腫についてお話します。また、当院において主にこれらの疾患の診療を担う救命救急センターのご紹介をいたします。

急性硬膜外血腫

急性硬膜外血腫とは、主に外傷による頭蓋骨骨折が原因となり、頭蓋骨と硬膜との間に血腫が形成された状態です。血腫サイズが大きいと脳組織が圧迫されて運動麻痺や感覚障害、言語障害、意識障害など種々の程度の神経症状が出現します。脳挫傷の有無・程度にも依りますが、一般的には脳それ自体の損傷は伴わないことが多く、タイミングを逸さずに手術で血腫除去を行えれば、比較的良好な転帰が期待されます。

典型的な急性硬膜外血腫では、受傷後に意識清明期があり、その後徐々に意識障害を呈してくることが良く知られているが、全例でそうなるわけではない。血腫サイズが小さい間は頭痛、嘔吐、不穏が主な症状ですが、サイズ増大に伴い急速に運動麻痺や感覚麻痺、言語障害、意識障害が進行し短時間で昏睡状態となることもあります。

CTで診断が可能です。血腫が凸レンズ型の高吸収域として描出されるのが典型的であり、レントゲンではわからないような骨折線も見つけることができます。血腫サイズが小さく神経症状もない場合は一旦経過観察となりますが、少なくとも受傷後6時間までにはCTを再度検査し、サイズ増大の有無を確認します。

1. 内科的治療

一般的には、まず止血を得るために止血薬を投与したり血圧を下げたりします。また高くなった頭蓋内圧を下げるために抗脳浮腫薬の投与することもあります。一方、過度の降圧は脳循環を障害しますし、頭蓋内圧低下により逆に血腫の増大を惹起することもあります。個々の症例の全身状態などみて判断しています。

2. 外科的治療

血腫サイズが大きい場合や増大傾向を示す場合には生命に関わる可能性があり、緊急手術が必要となります。手術は全身麻酔下に大きく開頭して血腫を除去して明らかな血管損傷による出血が確認できるときには十分な止血処理を行います。

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急性硬膜下血腫

急性硬膜下血腫とは、主に頭部への外傷が原因となり、硬膜と脳との間に血腫が形成された状態です。脳表の動静脈や架橋静脈の断裂が原因となります。脳挫傷を伴うこともしばしばあり、血腫の程度にも依りますが、一般的な予後は不良とされています。

急性硬膜下血腫では、急性硬膜外血腫と異なり脳挫傷などの脳へのダメージを伴うことが多いため、脳浮腫や脳腫脹を併発して受傷直後より意識障害を呈していることが多いです。また、硬膜下血腫や脳挫傷の程度にもよりますが、比較的急速に血腫が増大する場合には、目に見えて意識状態が悪化し昏睡状態となったり、場合によっては呼吸停止・心停止となったりすることもあります。

CTで診断が可能です。血腫が三日月型の高吸収域として描出されるのが典型的です。脳挫傷を伴う場合には、脳実質内に白い斑点が複数見られます(salt and pepper appearance)。血腫が大きい場合には血腫より脳が圧迫されるため、正中構造が偏位したり、脳室が変形・狭小化したり、また圧迫を受けた側の脳溝の消失などが見られます。血腫サイズが小さく神経症状もない場合は一旦経過観察となりますが、少なくとも受傷後6時間までにはCTを再度検査し、サイズ増大の有無を確認します。

基本的な治療法は急性硬膜外血腫と同じです。つまり、止血薬や降圧薬、場合により抗脳浮腫薬を投与しますが、生命に危険が迫っている場合、あるいは進行性に悪化していく場合には緊急手術が必要です。急性硬膜外血腫と比較してより急速に進行することもあるため、手術室まで間に合わないと判断した場合には、救急外来で小切開下に穿頭を行い、少し血腫を抜くことで時間を稼ぐこともあります。

急性硬膜外血腫とは異なり、脳実質にダメージが及んでいる可能性が高い病態であり、無事手術が終わっても脳腫脹や脳浮腫が遷延したり、神経症状が後遺したりすることもしばしばあります。また、離床が進まず肺炎や尿路感染症・褥瘡などの合併症を併発することも一般的な予後は不良とされています。

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慢性硬膜下血腫

慢性硬膜下血腫は、頭部外傷後3週間~3か月後に片麻痺や言語障害、認知機能低下を主訴に発見されることが多いです。手術により低下した認知機能も改善が見込まれるため、「treatable dementia(治療可能な認知症)」といわれることもあります。受傷直後のCTでは異常がない、あるいはあっても軽微であることが多いのですが、長い時間をかけて徐々に硬膜と脳との隙間に血腫を形成・増大し、見つかったときには脳が強く圧迫されていることが多いです。原因としては頭部外傷が最頻ですが、それ以外にも抗凝固療法や止血障害を呈する疾患、重度の肝機能障害などが原因となることもあります。主に高齢者に多い疾患ですが、若年者が発症した場合には特発性脳脊髄液減少症等による低髄液圧状態が背景にある可能性があり熟慮を要します。

高齢者では精神症状や片麻痺、歩行障害で発症することが多いです。精神症状は記憶・記名力障害、痴呆症状、活動性の低下、性格変化から意識障害まで様々である。その様相から若年性認知症や単に老化と診断されることもありますが、CT・MRIの普及によりそういったことは少なくなってきました。時に、突然発症の巣症状や意識障害といった脳卒中様の症状で発症することがあるため注意が必要です。

慢性硬膜下血腫の診断はCTで行われることが一般的であり、多くの場合容易です。血腫は三日月状をしており、時期により低~高吸収域とさまざまな色合いを示す。そのほか、血腫より脳が圧迫されるため、正中構造が偏位したり、脳室が変形・狭小化したり、また圧迫を受けた側の脳溝の消失などが見られ、これらをもとに診断します。

明らかな神経症状がなく、脳圧迫所見が乏しい場合には経過観察も可能であり、時に自然消退することもあります。しかし、神経症状を有する場合や、画像上の強い脳圧迫がある場合には外科的治療の適応となります。標準的な手術方法は、局所麻酔下に通常1カ所の穿頭(頭蓋骨に穴をあける)を行い、血腫内容物を吸引・洗浄除去してドレナージするというもので広く受け入れられています。この治療の目的は血腫を取り除くことによる除圧と血腫が本来もっている治癒能力の促進であり、出血を助長させる血腫内線溶物質を除去することにあります。

香川大学医学部附属病院救命救急センター

救命救急センターには当教室より脳神経外科専門医3人と若手脳神経外科医1人を派遣しており、脳卒中急性期や重症頭部外傷の緊急手術およびその後の神経集中治療を中心に診療活動を行っています。毎年約70例前後の脳外科手術(脳血管内手術も含め)を行いつつ、さらに交通事故・災害などによる多発外傷、急性薬物中毒、重症熱傷、心肺停止など救命救急ならではの症例の診療も日々行っております。救急車で搬送される患者様の中には一分一秒を争う方もおられますが、そんな多忙な毎日でもセンター持ち前のチーム力と軽快なフットワークを武器に、迅速かつ的確な判断のもと治療を行っており多くの実績があります。特に脳圧管理を中心とした神経集中治療は、救命救急センター長である黒田泰弘教授を筆頭にしてセンターの得意分野でもあり、県外から神経集中治療をぜひ学びたいという医師が集まってくる程で、全国トップレベルといっても過言ではありません。救命救急センターのホームページもご参照ください。ここでは、脳保護治療のひとつである低体温療法についてお話します。

低体温療法

当科では救命救急センターと協力して、重症脳損傷疾患(頭部外傷、脳血管障害、心停止後症候群など)の患者様に対して積極的に低体温療法を行っております。

低体温療法は、全身の体温を32~34℃まで低下させ、脳の代謝を下げることにより脳保護を行うものです。一般的には1℃の脳温の低下で約7%の脳代謝が低下するとされています。心停止後症候群に対する低体温療法の有効性は世界的に認められ、標準的な治療となりつつあります。重症頭部外傷に対する低体温療法は、米国の大規模比較試験で有効性が認められなかったために下火になりつつありますが、従来であれば救命さえ困難であった患者様が劇的に改善した症例も経験しており、今後も症例を選択して有効性を追及していきたいと考えています。

最近はTargeted temperature management (TTM)という概念が出てきており、治療疾患に応じて目標体温を設定し、全身管理を行う神経集中治療が始まっています。これらの治療は、あらゆる施設が一朝一夕にできるものではありません。最新の医療機器、十分な設備の整った集中治療室、そしてなんといってもあらゆるノウハウを持ち得た経験豊富なスタッフの全てが揃って初めて安全に行える治療法です。重症脳損傷の患者様には持続頭蓋内圧測定モニターを留置し、厳重に頭蓋内圧や脳灌流圧をモニターしがら、集中管理を行っています。

また、低体温療法の脳代謝抑制効果を確認する目的で、低体温療法中の脳ブドウ糖代謝を陽電子放射断層撮影法(PET)にて測定し、低体温療法終了後のブドウ糖代謝と比較してみますと、34℃前後の低体温療法により脳ブドウ糖代謝は50%以上抑制されることが明らかとなりました。この結果は、低体温療法の有効性を示す重要なデータの一つとなっています。さらに、最新の血管内体温コントロール装置を用いて、熱中症に対する急速冷却法や、多発外傷患者に対する積極的加温療法など積極的な体温管理の適応疾患を広げるべく、日々ブラッシュアップを行っています。

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