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脳血管障害

脳血管障害とは、脳血管に異常を認める疾患の総称です。その血管異常が急激な変化を起こして「血管が詰まる」、あるいは「血管が避ける」病態を脳卒中と呼びます。脳卒中は、悪性新生物、心疾患、老衰に次ぐ日本人の死亡原因の第4番目に位置しており、寝たきりの原因として最も多い疾患です。高齢化社会や生活習慣病の増加により、その患者数は増加しており、その治療や予防が大事になっています。

脳血管障害には、血管の狭窄や閉塞により血流が悪くなって症状を呈する虚血性脳血管障害と、血管が破れて出血して症状を呈する出血性脳血管障害に分かれます。虚血性脳血管障害には脳梗塞とその前兆と考えられる一過性脳虚血発作という病態があり、一方、出血性脳血管障害には脳内出血とくも膜下出血が含まれます。それぞれの疾患に応じた治療法があり、適切な診断と早急な治療が患者さんの予後(後遺症の程度や場合によっては生死)に関わってきます。当院では脳神経外科と救命救急センターおよび脳卒中診療部が密接に連携して、より迅速かつより安全な治療を行っております。

また、これまで手術と言えば、頭を開けて血腫を取り除いたり血管を吻合したりする開頭術がメインでしたが、昨今、脳血管内治療という分野が急速に発達・普及してきています。当院では以前よりいち早くこの治療方法を取り入れ、安全・低侵襲に多くの患者様の治療を行ってまいりました。2021年現在、当施設では日本脳神経血管内治療学会指導医2名、専門医5名が在籍しており、協力して治療を行っております。

ここでは、代表的な脳血管障害(および脳卒中)やその治療方法についてご紹介いたします。また、脳血管内治療については、別のページでもご紹介しておりますので合わせてご覧下さい。

脳梗塞

ラクナ梗塞とは脳梗塞のうち最も頻度の高いタイプで、脳深部の穿通枝という1mm以下の非常に細い血管が閉塞することで生じる脳梗塞です。梗塞の範囲は1.5cm以下と小さく、症状は他のタイプの脳梗塞に比較して軽いことが多いですが、運動や感覚などをつかさどる大事な部位にも穿通枝は向かっているため、梗塞範囲は狭くても非常に強い後遺症を残すことがあります。治療は抗血小板剤の内服や点滴治療が中心になります。

アテローム血栓性脳梗塞は、頚部や頭蓋内の太い血管に起こった動脈硬化により血管が狭窄や閉塞することで脳梗塞が生じます。血管狭窄部には粥腫(プラーク)が形成されており、粥腫自体の一部が剥がれてしまったり、狭窄部に生じた乱流によって生じた血栓が脳内の血管まで運ばれたりすることによって脳の血管が詰まって脳梗塞を生じます。治療は抗血小板剤の内服や点滴治療が中心になりますが、血栓のある血管が太い場合や病状悪化・再発の可能性が高い場合には予防的外科的治療が考慮されます。

心原性脳塞栓症とは、心臓内に血栓(血の塊)が形成され、それが血流に乗って脳血管へ運ばれ、これを閉塞してしまうことで生じます。原因としては心房細動という不整脈によることがほとんどですが、他に心臓の先天性奇形(心房中隔欠損など)や、大血管の粥腫が原因になることもあります。比較的大きな血管を突然閉塞してしまうため、3つの脳梗塞のタイプの中では最も重症なことが多いタイプです。治療は抗凝固剤の内服や点滴治療です。

※脳梗塞のいずれの病態も、発症の超急性期(概ね発症4.5時間以内)には、血栓線溶剤(tPA)という血管を詰まらせている血栓を溶かすお薬の適応となることがあります。また、心原性脳塞栓症で多いですが、カテーテル治療で血栓部位まで細いカテーテルを誘導してステント(金属の筒状のもの)で血栓を絡めとって回収させたり、あるいは血栓の直前から血栓溶解薬(uPA、ウロキナーゼ)投与することで、血栓を直接的に溶かして閉塞した血管を再開通させたりすることもあります。発症してから時間が経ってしまうと完全な脳梗塞となってしまうために、これらの治療はむしろ有害となる可能性も出てくるため、できるだけ早く、施設の揃った専門病院への受診ないしは搬送が必要です。

※脳梗塞の治療に並行して、できるだけ早期よりリハビリテーションを始めることで、将来的により良好な機能予後(後遺症の程度)が期待されます。

脳出血

脳出血は脳を貫いて走る非常に細い血管が破綻して生じ、生活習慣病に深く関連しています。脳内出血の原因の約8割が高血圧性脳内出血であり、残りの約2割は脳動静脈奇形などの血管奇形が原因です。

高血圧性脳出血は、高血圧症や動脈硬化を背景として、50~60歳代に好発します。高血圧の状態が続くと、穿通枝などの細い血管にストレスがかかり、動脈硬化が進行して、もろくなったり微小な動脈瘤を形成したりし、破綻することで脳内出血をきたします。脳室内へ出血が漏れ出る(脳室穿破といいます)こともあります。出血を生じた場所によって出現する神経症状は異なりますが、主には気分不良や吐き気を覚え、半身の麻痺や感覚障害、言語の障害などをきたします。重症の場合には、意識状態の悪化を来たし、場合によっては手が付けられず命を失うこともあります。また、幸い回復したとしても後遺症として重症な神経症状が残ってしまうことが少なくありません。

高血圧性脳内出血の治療は、出血量が少量の場合には厳重な血圧管理のもと、止血剤や抗浮腫剤を用いた点滴治療が中心になります。出血量が多く生命の危険があると考えられる場合には、緊急にて開頭血腫除去術を行うことがあります。手術は救命が目的であって障害を回復させるものではなく、術後も意識障害が強く遷延したり、重度の後遺症が残ったりすることが稀ではありません。出血量が中等量の場合には、意識障害や神経症状の程度や必要に応じて手術が行われます。出血量が比較的少ない場合には、CTにて血腫の位置を計測し、局所麻酔下に頭蓋骨に小さな穴を開けて血腫を吸引する定位的血腫吸引術を行います。血腫を除去することで、リハビリテーションの効果が出やすく、回復が早くなるといわれています。また、最近では神経内視鏡の性能や技術の進歩も目覚ましく、これを用いて同様の血腫除去術を行うことも増えてきました。なお、出血量が極めて多量で、すでに重度の脳損傷があり手術をしても救命が困難な場合は、手術の適応はありません。

点滴や手術などの急性期の治療に並行して、できるだけ早期からのリハビリテーションが重要であることは脳梗塞と同様です。

脳動脈瘤(未破裂脳動脈瘤、破裂脳動脈瘤(くも膜下出血))

脳を栄養する脳動脈に、風船のようなふくらみができることがあり、これを脳動脈瘤といいます。動脈瘤ができる原因については現在研究が進んでいますが、脳動脈の壁の一部に弱い部分があり、ここに持続的に血流が当たると、少しずつ膨らんでくるとされています。動脈瘤が大きくなると、いろいろな神経症状がおこってきます。頭痛、複視(ものが二重にみえる)、視力の低下、視野が狭くなる、など、動脈瘤の場所によって様々です。しかし、一般的に動脈瘤は小さいことが多いため、このような症状がでることは少なく、動脈瘤が破裂しなければ無症状であることがほとんどです。破裂していない動脈瘤を、「未破裂脳動脈瘤」といいます。また、動脈瘤が破裂すると、「くも膜下出血」という病気になります。

動脈瘤画像.jpg

最近では、MRIやMRAなどの検査機器が発達し、頭痛やめまいなどの精密検査や、脳ドックなどを受けられた患者様に、まだ破裂していない、未破裂の状態の動脈瘤がみつかることが増えてきました。しかし、このようにして見つかった動脈瘤は、必ず破裂するわけではありません。破裂する確率は、一般的には年間約1%程度といわれていますが、大きな動脈瘤や形が歪な動脈瘤は、より破裂しやすいとされています。未破裂脳動脈瘤が発見されたら、そのまま経過をみるのか、あるいは破裂の予防(手術)をするのか、十分に検討する必要があります。

脳と脳を覆うくも膜との間に出血が生じた状態です。8割以上は脳動脈瘤破裂が原因です。突発性の激しい頭痛や意識障害を来たします。発症時または発症より1ヶ月以内に約3割が死亡し、残りの半数の人も命が助かりながらも後遺症を残す重篤な病気です。また、一度破裂した脳動脈瘤は再出血の危険が高く、その場合には約7割は死に至り、助かっても重度の後遺症を生じる可能性が高くなります。そのため、くも膜下出血を発症した場合には、まずは再出血を防止する手術が第一となります。手術は開頭手術と脳血管内治療の2つの方法があり、後述します。

手術後も油断できません。出血に晒された脳血管は、発症から4~14日にて脳血管攣縮をいう血管が細くなる現象が生じることがあります。重度の場合には血流が悪くなり脳梗塞に至り新たな神経症状がでることもあります。そのため、開頭術ないし血管内治療後には、予防的に点滴負荷や血管攣縮防止薬など内科的治療を行います。それでも凌げない場合には脳血管内治療にて血管攣縮を生じている血管に直接に血管攣縮防止薬を投与したり、風船のついたカテーテルで血管を広げたりして治療を行います。

また、発症から3~4週間以降には、水頭症という状態を生じる可能性があります。これは、くも膜下に広がった出血が髄液の流れや吸収を邪魔するためで、脳室という髄液の通り道に髄液が過剰に貯留した結果生じる病態です。シャント術という手術で治療可能です。

「未破裂動脈瘤」の治療目的は、将来の破裂の予防であり、「くも膜下出血」をおこした動脈瘤の治療目的は、再破裂の予防です。ともに治療方法は、大きく2つに分けられます。

全身麻酔をかけて、頭皮を切開し頭蓋骨をはずし、顕微鏡を使って脳のすきまから動脈瘤に接近します。動脈瘤に1~2cmくらいの大きさの洗濯ばさみのような「クリップ」をかけて瘤をつぶしてしまうことにより、破裂を予防します。

顕微鏡を使用し、脳のすきまから直接に動脈瘤を観察できることと、古くより行われてきた術式で長年の歴史があり、確実性が高い手術方法です。ただし、開頭し脳を分けて手術するため、身体への手術侵襲や負担が大きくなること、脳深部にできた動脈瘤は難易度が高いこと、また重症の場合には脳が強く腫れるため、手術自体が困難となることなどがデメリットとなります。

クリッピング術.gif 脳動脈瘤クリッピング手術(ICG使用).jpg

大腿部(足の付け根)や肘部の太い動脈からカテーテルという細い管を挿入します。このカテーテルの中に、さらに細いマイクロカテーテルという管を通し、これを動脈瘤の中まで誘導し、動脈瘤の中にプラチナ製の「コイル」という細い金属糸を何本も入れていきます。これにより、動脈瘤を内側より閉塞してしまいます。

開頭したり、脳に直接触れたりしないため、身体侵襲や負担が少なく、状態が良ければ手術翌日から歩行可能となります。また、クリッピング術では困難な脳深部にできた動脈瘤でも治療可能であり、重症のくも膜下出血の場合で脳が腫れていても手術できる可能性があることなどがメリットです。

ただし、動脈瘤に留置したコイルが血流などで圧縮されることなどにより、動脈瘤が再発することがあり、再治療を要したりすることがあります。そのため、比較的長い期間にわたって再発していないかのcheckのための定期検査が必要です。また、クリッピング術と比べて歴史が浅いため、術後10~20年以上の長期成績(将来的な治療効果)が不明な部分があります。

最近では、コイルをいれるのではなく、動脈瘤ができた血管にフローダイバーターといわれる金属性の筒(ステント)を留置することで、動脈瘤に入る血流を減じる治療が登場しております。血流がなくなった動脈瘤は内部が血栓化し、徐々に血管が再構築され動脈瘤が消えていくことを期待するものです。これまで、治療困難とされていた大型動脈瘤などで使用され、良好な成績が報告されています。

動脈瘤塞栓術.gif

頚部頚動脈狭窄症

のどぼとけの横をさわると、ドクドクと拍動している動脈があります。これが、頚動脈といわれる動脈です。頚動脈は、心臓から分かれて全身を栄養している大動脈という非常に大きな動脈から分かれたものです。まず、総頚動脈となり、これが頚部で内頚動脈と外頚動脈に分かれます。内頚動脈は、主に脳を栄養する血管であり、外頚動脈は主に顔面や頭皮を栄養する血管です。総頚動脈や内頚動脈が狭くなることを頚動脈狭窄症といい、さらに進行して血管が詰まってしまうと、頚動脈閉塞症といいます。

原因の多くは動脈硬化によるものです。動脈硬化とは、動脈を構成している内膜という部分にコレステロールや脂肪のかたまりなどが沈着し、内膜が肥厚するため、動脈が硬くなって、屈曲・蛇行するようになり、動脈の内腔が狭くなることをいいます。動脈硬化の原因としては、加齢、高血圧、糖尿病、高脂血症(コレステロールや中性脂肪が高い)、心疾患、肥満、多量の飲酒、喫煙などがいわれています。

頚動脈は、脳に血を送る動脈です。よって、狭窄が高度になると、脳に血液が行かなくなったり、狭窄している部分に血のかたまりができて、これがはがれて脳まで飛んでいき、脳血管を閉塞したりすることがあります。脳の血の流れが低下、あるいは脳血管が閉塞すると、脳梗塞となります。脳梗塞とは、脳細胞が、栄養不足となって壊れてしまうことをいいます。一度壊れてしまった脳細胞は、元通りになることはありません。よって、脳梗塞になると、何らかの後遺症が残ります。脳梗塞が軽度の場合、後遺症は軽くて済みリハビリで回復することができますが、脳梗塞が重度であると寝たきりや植物状態となってしまうこともあります。

また、脳梗塞の警告症状というものがあります。一時的に脳の症状が出現し、短時間で治るようなもので、これを一過性脳虚血発作といいます。この時の脳の症状とは、片麻痺(右あるいは左の手足が動かない、動きにくい)、感覚障害(右あるいは左の手足がしびれる)、急に片方の眼が真っ暗となって見えなくなる、言葉がしゃべりにくい、呂律が回りにくい、視野(目の見える範囲)が狭くなるなどです。たとえ症状が一過性で、すぐに治ったとしても、安心してはいけません。症状は何回か繰り返し、最後には脳梗塞となって、治らなくなってしまうからです。このような、脳梗塞の警告症状である、一過性脳虚血発作が起こったら、早めに検査をする必要があります。

過去に頚動脈狭窄に関係した神経症状を認めたことのある人には、70%以上の狭窄で年間7~13%、50%以上の狭窄で年間4~5%の確率で脳卒中を再発し、一度も症状を起こしたことのない場合でも、60%以上の狭窄があると年間2~3%の確率で脳梗塞を発症することがわかっています。頚動脈狭窄症の多くは抗血小板剤などの内科的治療で経過をみますが、狭窄度合いが強く、過去に何らかの症状を起こした既往があって将来脳梗塞を起こす危険性が高い場合には、手術による外科的な予防治療が必要となります。

全身麻酔をかけ、頚部を切開し、頚動脈を露出します。一時的に頚動脈を遮断し、頚動脈を切開し、動脈硬化により肥厚した内膜を除去します。最後に動脈を縫合し、血流を再開して終了します。

直接肥厚した内膜を除去できる手術方法で、治療方法の長年の歴史があり、今までに確立されている術式です。ただし、全身麻酔で手術するため、患者さんへの侵襲や負担が大きく、術後しばらく安静が必要であること、全身麻酔が困難なような全身状態が不良の患者さんでは行えないこと、頚動脈のそばにある、のどを支配する神経、食道、気管などを傷つけてしまうと、発声障害、飲み込みの障害、呼吸障害などがおこることがあることなどがデメリットとなります。

大腿部(足の付け根)や肘部の太い動脈からカテーテルという細い管を挿入します。このカテーテルを頚動脈の中まで誘導し、狭窄部に「ステント」という超合金製のチューブをいれます。これにより、狭窄部を内側より拡張させます。

全身麻酔は必要なく、局所麻酔で行うことができ、また、直接頚部を切開して動脈をさわったりしないため、患者様への身体侵襲や負担が少なく、手術翌日から歩行可能となります。また、全身麻酔が困難となるような全身状態が不良の患者様でも行えます。ただし、直達術(CEA)と比べて歴史が浅いため、長期成績(将来的な治療効果)が不明な部分があります。また、再狭窄をきたしていないかを確認するため、半年~1年に1回程度の割合で定期検査が必要となります。

香川大学脳神経外科では、経験の豊富な脳神経外科専門医および脳血管内治療指導医・専門医が治療にあたるため、いずれの治療方法も可能です。また、最新の治療についても安全を担保しつつ積極的に取り入れております。治療法にはそれぞれに長所・短所があるため、どの治療法が患者様にとって良いのか、十分に議論することにより、それぞれの患者様にとって最適の治療法を選択することができます。もちろん、患者様自身・御家族様のご希望も十分に尊重し取り入れたうえで、治療方針を決定していきます。

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頭蓋内動脈狭窄症

頚動脈はそのまま頭蓋内へ入り、脳へ血流を送って栄養します。頭蓋内の動脈が狭くなることを頭蓋内動脈狭窄症と呼びます。頚動脈と同様、狭窄が高度になると、脳への血液が不十分となり、場合によっては脳梗塞にいたることもあります。脳梗塞になると、何らかの後遺症が残ります。脳梗塞が軽度の場合、後遺症は軽くて済みリハビリで回復することができますが、脳梗塞が重度であると寝たきりや植物状態となってしまうこともあります。一過性脳虚血発作を呈することもあり、この場合には早めに検査をする必要があります。

頭蓋内動脈狭窄症の多くは抗血小板剤などの内科的治療で経過をみますが、狭窄度合いが強く内科的治療を行っても脳梗塞や一過性脳虚血発作を繰り返す場合には、手術を検討します。を起こす危険性が高い場合には、手術による外科的な予防治療が必要となります。

全身麻酔をかけ、側頭部頭皮の皮下を走行している動脈(浅側頭動脈)を剥離・確保します。その直下に開頭して、脳表にある動脈(中大脳動脈)へ、浅側頭動脈をつなぎます。そうすることで、狭窄している部分より遠くの脳へは、浅側頭動脈を介して血流が流れることになり、脳梗塞が予防できます。

狭窄部はそのままで、脳の血液が足りていない分へ頭皮の血管をつなぐという、長い歴史のある治療です。有効性については賛否ある部分はありますが、基本的には適応を見定め、丁寧な手術を行えば、脳梗塞の予防効果が十分に期待される手術となります。ただし、全身麻酔で手術するため、患者さんへの侵襲や負担が大きく、術後しばらく安静が必要であること、全身麻酔が困難なような全身状態が不良の患者さんでは行えないこと、稀に吻合部での血栓形成が原因となって血管が詰まってしまうことがあることなどがデメリットとなります。

大腿部(足の付け根)や肘部の太い動脈からカテーテルという細い管を挿入します。このカテーテルの中に、さらに細いマイクロカテーテルという管を通し、これを頭蓋内血管の狭くなっている部分まで誘導します。バルーンという風船のついた細いカテーテルを誘導することが多く、狭窄部をこの風船で内側より拡げます。効果が不十分な場合には引き続き頭蓋内用のステントを留置することもあります。

局所麻酔で行うこともありますが、数mmという細い血管を対象としているため、全身麻酔をかけて行うことが多いです。ただし、開頭術と比較すると患者様への身体侵襲や負担が少ないため、手術翌日から歩行可能となります。ただし、動脈硬化が強い狭窄の場合、一旦拡げても比較的に早期に再狭窄をきたしてしまったり、あるいは風船で膨らました場合に血管破裂を起こしたりする危険性もあり、メリット・デメリットを十分に考慮した上で、適応を見定めて手術を行う必要があります。

そのほかの血管障害

脳動静脈奇形

脳を流れる動脈や静脈が複雑に入り組み、この両者が毛細血管を介さずに直接つながっている血管奇形です。原因はいまだ明らかにされていませんが、多くは先天的なもの(生まれつき)とされています。

動静脈奇形が脳を圧迫したり、動静脈奇形が破裂して頭蓋内に出血すると、脳の症状が出現します。脳の症状とは、頭痛、片麻痺(右、あるいは左の手足が動かない、動きにくい)、感覚障害(右、あるいは左の手足がしびれる)、言葉がしゃべりにくい、呂律が回りにくい、視野(目の見える範囲)がせまくなる、拍動性(心拍と一致した)耳鳴り、けいれん発作などです。これらは突然起こることもあれば、徐々に起こることもあります。また、動静脈奇形は脊髄にできることもあります。

脳または脊髄動静脈奇形の治療は一般に複雑、困難であり、かなり慎重にならなければなりません。出血を起こしているもの、圧迫による症状があるものなどは、積極的に治療を行うことが多いですが、無症状なものでは治療をせず、様子をみることも多いです。

治療の目的は、動静脈奇形からの出血を予防することです。そのための治療法には、直達手術(全身麻酔により、直接切開して動静脈奇形を摘出する)、血管内手術(マイクロカテーテルを動静脈奇形近くまで誘導し、血管内から塞栓する)、放射線治療(ガンマナイフ照射)があります。それぞれの患者様によって、これらの治療法を組み合わせて治療します。どの治療法が良いのか、どの治療法を組み合わせればよいのかは動静脈奇形が脳・脊髄のどの部部分にあるかどうかも重要となってくるため、十分に検討が必要です。

香川大学脳神経外科では、経験の豊富な脳神経外科専門医および脳血管内治療指導医・専門医が治療にあたるため、いずれの治療方法も可能です。また、放射線治療ができるガンマナイフ装置は、現在日本国内に限られた数しかありませんが、当科の関連病院(岡山県、岡村一心堂病院)に設置されているため、連携してスムーズに治療を行うことができます。

Onyxを用いた脳動静脈奇形の治療.jpg

硬膜動静脈瘻

血管奇形の一種ですが、脳の中ではなく、脳を包んでいる硬膜という膜および硬膜の中を走行する静脈洞の病変です。眼の奥の海綿静脈洞という部分にできれば、眼球突出、結膜充血、眼球運動障害による複視、頭痛・顔面痛等がおこり、後頭部にできれば耳鳴り、視野障害、頭痛等が起こります。頭蓋内の血管に血液が逆流すると、脳卒中のときと同じような様々な脳の症状や、脳出血を起こすこともあります。

治療法としては、動静脈短絡部の遮断が重要となります。発生した部位により開頭術が選択される場合と血管内手術が選択される場合があります。昨今の血管内治療の進歩で、液体塞栓物質(NBCAやOnyx液体塞栓物質)が導入されて久しく、徐々に血管内治療が適応される場合が増えてきております。ただし、開頭術の方がより安全で確実な場合もあるため、十分に検討して治療方法を選別しております。その他、ときに放射線治療が選択されることもあります。

硬膜動静脈瘻の血管内治療.gif

もやもや病

内頚動脈が狭窄ないしは閉塞し、毛細血管が多数拡張して側副血行路を形成し脳血流を維持するため、血管撮影検査などでこれらの毛細血管が「もやもやと見える」ため、もやもや病といわれています。国の指定難病疾患となっています。原因不明ですが、近年では多因子遺伝の関与が疑われています。アジア系に多く、欧米では珍しい病気で人種的差を認めます。発症は、10歳以下と30~40歳を中心に二峰性に認めます。脳虚血や脳出血で発症しますが、小児期には脳虚血で発症することが多く、片麻痺の側が発作ごとに変わるような症状や、泣いたり、笛を吹いたりといった過呼吸を来たす動作で虚血発作を来たすことは特徴的な症状です。成人では出血にて発症することが多く、逆に脳梗塞での発症は少なくなります。診断には、MRIや脳血管撮影が有効です。

治療は症状を呈する場合には手術の適応となります。脳虚血例においては、手術はバイパス手術による直接血行再建術や、筋肉や硬膜を脳と接触させることにより血管増生を促す間接的血行再建術を行います。出血例においても、バイパス手術を行うことで再出血率が低くなるといわれています。

もやもや病に対する直接バイパス手術(ICG使用).jpg
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