漏斗胸の治療について説明する「胸のかたち」研究室

大人の漏斗胸・女性の漏斗胸の手術をたくさん行っています。

女性の漏斗胸治療には特別の配慮が必要である

ナス法は優れた手術法ですが、ナス法をあたかも漏斗胸に対する万能手術法のようにとらえる認識は間違っています。特に女性に対して治療を行う場合には、ナス法を行っても患者さんの満足を得られないことがしばしばあります。女性の漏斗胸患者さんは、手術をお受けになる前にご自分の問題点がどこにあるのかを十分に理解しておく必要があります。このページはそうした理解を助けることを目的として書かれています。女性における漏斗胸の治療は、男性に対するのとは全く異なった配慮が必要です。男性の漏斗胸と女性の漏斗胸では、同じく漏斗胸と言っても、全く別の疾患として考えるべきです。

女性の治療において、男性の治療と大きく異なる点は3つあります。

以下、それぞれについて説明してゆきましょう。

【1.胸郭の形だけを治しても、良くならない場合がある】

図1:右側が左に比して陥没している

図1は、ある女性の患者さんの写真です。写真で見ると右の胸壁が左に比べて少し凹んでいるように見えます。たしかにCTでこの患者さんの胸壁を観察してみると、右の胸壁が左に比べて若干低い位置にありました。ゆえに漏斗胸として診断し、手術を行っても悪いわけではありません。

しかしこの患者さんの場合には、それだけでは整容的な問題は解決しません。その理由は、乳房のかたちが非対称だからです。右の乳房の高さが左側に比べて小さい(図2)ので、仮に漏斗胸の手術を行って胸壁を対称な形にすることができたとしても、やはり非対称な印象は残ります。このような患者さんに対しては、乳房の整容手術も併せて行うことが必要です(乳房への工夫)。

図2:右の乳房の高さ(右)が左の高さ(L)より小さい

目立つ傷跡を作らない

目立つ傷跡を作らない

図3:他院で手術が行われた、キズアトが目立つ症例

漏斗胸の手術を行う目的の半分は、心肺機能の改善をはかることですが、残りの半分は整容的改善をはかること、平たく言えば見栄えをよくすることです。ゆえに、仮に手術を行って胸の凹みが治ったとしても、胸に大きな傷跡が残ってしまっては手術を行った意味は半減します。
たとえば図3は、過去に他院において手術が行われた患者さんの胸の状態ですが、大きな傷跡が残ってしまっています。

このような傷跡を作らないようにすることが大切なことは男性でも女性でも変わりません。しかし女性の場合に目立つ傷跡を作ってしまうと、乳房にもひきつれが及んでしまって形が変わる場合があります。ゆえに、女性の場合には、とりわけ切開と縫合に配慮が必要です(香川大学のOnly One’s » 女性の患者は美容の技術を

目立つキズアトを作らないためには縫い方にコツがあります。少し内容が玄人向きですが、興味ある方はこちらをお読みください。

切開する場所にも気をつかうべきである

漏斗胸に対する手術においては、矯正バーを装着するために小切開を置きますが、どの部位の皮膚を切開するのか、位置の選択には十分注意することが必要です。なぜなら形成外科的な配慮をして切開を行わないと、第二次性徴以後に乳房が成長してきたとき、「きずあと」が乳房の領域にかかってしまいかねないからです。乳房の上に「きずあと」が生じてしまうと、それ自身が目立ちますし、ひきつれを起こすことで乳房の変形の原因になるからです。

漏斗胸の手術を行うのは形成外科医だけではありません。小児外科や呼吸器外科、心臓外科の医師も手術を行います。

いろいろな科の先生が手術を行うことは非常に良いことです。ですが形成外科医である筆者から、ぜひともお願いしたいことがあります。

それは「切開を置く場所にも注意をして欲しい」ということです。不適切な場所で皮膚を切開すると、美容的な意味で患者さんが悩むことになるからです。

例えば、図4でお示しした2つの症例のキズアトをご覧ください。乳房の位置とは全く関係ない部分にキズアトが残っています。この部分から矯正バーを胸腔内に入れ込むので、その真上の皮膚を切ると、手術が非常にやりやすいことは確かです。

しかし、形成外科医から見れば、この場所で切開をすることについては、疑問を禁じえません。

図4:切開の場所が、美容的に好ましくない例

というのは、生理的な身体の「みぞ」に切開線が一致していないからです。

乳房の下には「みぞ」があります。皮膚を切開して傷跡が残るのはある程度仕方ないとしても、それがどこにあるのかにより視覚的な印象は全く異なるのです。

「みぞ」に切開が一致している場合には、その部分に少し傷跡が残ったとしても、それほど奇異な印象は与えません(図5)。ですが、少し「みぞ」を離れるだけで、かなり目立ってしまうのです(図6)。図4の症例を手術した外科医も、この点を考慮して欲しかったと感じざるを得ません。

図5:美容的に正しい切開

図6:美容的に誤った切開

このように、ちょっとした配慮で美容的な印象は大きく変わって来ます。

漏斗胸の手術では、胸の凹みが単純に治ればよいというものではなく、「美しい胸郭」を作らなくてはいけません。

形成外科医ではないとしても、女性の漏斗胸を手掛ける先生はぜひとも、この点も留意されるようお願いします。

思春期前の女児における問題

漏斗胸に対する手術においては、矯正バーを装着するために小切開を置きますが、どの部位の皮膚を切開するのか、位置の選択には十分注意することが必要です。なぜなら形成外科的な配慮をして切開を行わないと、第二次性徴以後に乳房が成長してきたとき、「きずあと」が乳房の領域にかかってしまいかねないからです。乳房の上に「きずあと」が生じてしまうと、それ自身が目立ちますし、ひきつれを起こすことで乳房の変形の原因になるからです。

図7:乳房に変形が生じた症例

例えば図7は他院において手術が行われた症例ですが、切開後のひきつれのために左の乳房が変形しています。形成外科的な配慮をしないで切開の部位を決定すると、こうした問題が起こってしまいます。

【3.乳房のかたちは、漏斗胸の手術により変化する】

図8:乳房の位置は手術によって変化する

乳房は胸壁の上にのっています。よって、胸壁の形を手術によって変えると、乳房の位置も変わります(図8)。土台が傾くと、その上に立っている家も傾くのと同じ理屈です。ゆえに女性の漏斗胸患者さんの治療を行うにあたっては、胸壁のことだけを考えていては駄目です。胸壁の形を変えるに伴い、乳房の見え方がどうなるのかを常に配慮していなくてはいけません。もしも胸壁の形を治すことで、乳房のかたちが不自然にみえることが予測されるのならば、組織移植などの形成外科的な手技を用いて調整(香川大学のOnly One’s » 女性の患者は美容の技術を)を行わなくてはいけません。

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