「乳房」がカギになる、女性の漏斗胸
女性の漏斗胸患者さんのほとんどは、胸郭(あばら骨)のみではなく、乳房のかたちについても悩まれています。われわれは、形成外科の持っている、乳房の整容手術の技術を応用して患者さんの悩みを解決しています。
ここでは、室長(永竿教授)が執刀した実例を紹介しながら、治療においてはどのような点に留意し、具体的に何を行うのかについて説明します(写真の使用は患者さんに許諾を得ています)。
しかし彼女の訴えをよく聞いてみると、気にされているのはいわゆる「あばら」の形ではなく、「乳房」の形であることがわかってきました。実際に患者さんの胸をよく見ると、左側の乳房には見られる溝(図2に△で示しています)が右側には見られません。つまり右側の乳房の方が、左側よりも小さいのです。
図1:胸郭の右半分が、左より凹んでいます
図2:乳房は右側より左側が小さくなっています
そこで、「あばら」ではなく乳房の形を整える治療を行うことにしました。まず、どのくらいのボリュームをどの部分に足せば良いのかを検討します。胸の左右を比べながら、精密な予測を行います(図3)。
図3:移植すべき組織の位置とボリュームの評価
この予測に基づいて、背部から適切なボリュームの皮膚・脂肪・筋肉を採取します。そして胸部に移行を行います(図4)。
図4:背部からの組織採取と、胸部への移行
背部から組織を移植した結果、不足していた右の乳房のボリュームが補われました(図5)。
図5:術前と術後の比較
このように漏斗胸であっても、本当に必要とされる手術はナス法をはじめとする胸郭の形成手術とは限りません。特に女性の患者さんを治療するにあたっては、乳房の形態を考慮に入れ、必要に応じて乳房の形成手術を行うことがとても大切です。胸郭の形を治す技術と、乳房の形を治す技術の双方を有していることは、女性の漏斗胸患者さんを治療するにあたって、必要不可欠です。われわれは、おのおのの患者さんの要求をお聞きした上で、それに対して適切な手術を選択しています。