上部消化管外科

胃外科

胃がんについて

2012年の胃がん罹患率(人口10万人あたり新たにがんと診断される人数)は、男性146.7、女性62.8であり、男性では1番目、女性では乳腺、大腸に続いて3番目に多いがんであります。胃がんで亡くなる人の割合は減ってきていますが、部位別のがん死亡率(1年間に人口10万人あたり何人死亡するか)では、男性51.6で2番目、女性では25.5で3番目に死亡率の高いがんであり、依然、日本人にとって重要ながんの一つと言えます(国立がん研究センターがん対策情報センターによる)。

胃がんのリスク

日本人に多い胃がんですが、何が発生に関わっているのでしょう?胃がんのリスクについて説明します。

ヘリコバクター・ピロリってご存知でしょうか?ヘリコバクター・ピロリの持続感染は胃がんの確実なリスク要因です。ヘリコバクター・ピロリの感染によって引き起こされる慢性炎症は、胃粘膜細胞のDNAにメチル化異常(遺伝子配列の異常はないが、遺伝子が使えなくなる)をもたらすことが原因で発がんと関係していると考えられています。そのピロリ菌ですが、1週間の内服治療で除菌することが可能です。胃カメラの検査を受けて、ピロリ菌の感染が証明された人は、除菌することをお勧めします。しかし、除菌したからといって完全にリスクがなくなるわけではなく、非感染者にくらべるとリスクは高く、定期的な検診は必要です。

環境要因も大きく関与しており、塩分や漬物の摂取、喫煙はリスクであることが知られています。一方、野菜や果物の摂取は、おそらく確実な予防要因とされています。塩分は控えめで、果物、野菜が不足しない食生活を心がけることは重要だと思われます。

参考:Van Cutsem E, etc. Gastric cancer. Lancet. 2016

胃がんの治療

胃がんの治療には、手術(胃切除)、内視鏡的治療(胃カメラで病変のみ切除)、化学療法(抗がん剤など)の3つが中心で、日本胃癌学会が編集した胃癌治療ガイドラインを基本として、病期(病気の進行状況)、患者さんの状況によって治療内容を決定します。気軽にご相談ください。

胃切除

切除可能な胃がんの標準的な治療は手術です。

胃がんの手術では、腫瘍(がん)の切除だけでなく、転移のしやすいリンパ節(領域リンパ節)の郭清、食べ物の通り道を作る再建を含めた手術が必要です。手術方法には「開腹手術」「腹腔鏡手術」がありますが、当院では患者さんの体に負担の少ない、腹腔鏡手術を積極的に行っています。

腹腔鏡手術

早期がんと、一部の進行がんに対して行っています。

腹腔鏡手術ではお腹に数箇所の孔(5mm~20mm程度)から行うため、従来の開腹手術(15~20cmの傷で行う)に比べて傷が小さいため、手術後の痛みが少なく、回復も早く、手術後10日前後で退院しています。現在、胃がんの腹腔鏡手術は完全鏡視下手術を行っており、病変部の切除後に、再建術も腹腔鏡下に行うことで、より傷が小さく低侵襲な手術を提供しています。

当科で行っている腹腔鏡手術の種類は、病変の位置により「幽門側胃切除(胃の出口側2/3の切除)」「胃全摘(胃が残らない)」、「噴門側胃切除(胃の入口側1/3-1/2の切除)」を行っています。以前は、胃全摘になっていた胃の入り口側のがんについても、噴門側胃切除を行うことで胃を残すことが可能です。わからないことがあれば、ご相談ください。

腹腔鏡手術の創
噴門側胃切除

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開腹手術

進行がんに対しては、開腹手術を行っています。

腹腔鏡手術と違って、手術による傷は15-20㎝と大きくなりますが、麻酔科とも連携し、以前に比べ術後の痛み軽減を実現しています。退院までの日数も腹腔鏡手術と差はありません。
手術方法は、胃がんの位置により「幽門側胃切除(胃の出口側2/3の切除)」「胃全摘(胃が残らない)」、を行っています。場合によっては、他臓器(脾臓や、膵臓、肝臓などの)合併切除も行います。

進行癌の場合、より治癒率を向上させる目的で、手術前や、手術後に補助療法として化学療法(抗がん剤)を行うこともあります。

幽門側胃切除
胃全摘

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内視鏡的治療(EMR、ESD)

内視鏡科が担当しています。
 リンパ節転移の可能性のない、早期の胃癌に対して行っています。内視鏡(胃カメラ)で、胃の内側だけを切除する方法で、胃を温存できるため食生活に対する影響はほとんどありません。治療のあと病理検査(顕微鏡の検査)を行い、場合によっては外科的な追加切除(胃切除)が必要になることもありますが、その場合、通常は腹腔鏡にて切除可能です。

化学療法

手術と組みあわせて行う補助化学療法と手術による治癒が難しい場合に行う化学療法があります。

術後補助化学療法

進行胃がんでは、手術で切除できたと思われた場合でも、検査ではわからないような微小ながんが残っている可能性があります。そのような「がん」からの再発を予防する目的で、手術後に抗がん剤の内服を行うことがあります。

術前化学療法

比較的大きく、リンパ節転移が多数認められる場合などは、手術の後に再発をきたす確率があがります。

切除可能な胃がんの場合、日本では切除の後、化学療法(抗がん剤)を行うことが一般ですが、術後の体力の低下などの影響もあり、化学療法(抗がん剤)の投与が、予定通り進められないこともあります。そこで、当院では腫瘍内科と協力して手術前に強力な化学療法を行うことで再発を抑える試みを行っています(臨床試験)。

手術による治癒が難しい進行・再発胃がんに対する化学療法

当院では腫瘍内科が担当しています。

手術では治癒が期待されないがんや、再発したがんに対する治療では、化学療法が中心となります。近年、化学療法の進歩により、胃がんに効果のある抗がん剤が増えており、がんは消えないまでも、進行を抑えることがわかっています。

胃切除後障害

胃切除後障害とは、病気を治す目的で胃の切除を行うことにより起こる様々な症状のことですが、しばしば生活障害をきたすため、対応が必要になります。胃切除後の25-40%の患者さんで発生するとされており、胃切除後の重要な問題です。

胃切除後障害は、器質的障害(吻合部狭窄、逆流性食道炎など)機能的障害(腹痛、消化不良、下痢、ダンピング症候群など)栄養代謝障害(貧血、骨代謝障害 るい痩)など症状が様々であります。

治療は、主に食生活習慣の改善、栄養指導、薬物治療により行われます。当科では、胃外科・術後障害研究会の胃切除後障害対応施設として活動しておりますので、気軽にご相談ください。

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胃粘膜下腫瘍

胃の粘膜の下にできる腫瘍のことを総称して「胃粘膜下腫瘍」といいます。良性のものから悪性のものまで様々ですが、一部には、転移や再発を起こす悪性腫瘍のものもあり、「GIST」も、その一部です。

当院では、GISTの治療は「GIST診療ガイドライン」に基づいて決定しており、5cm以下の腫瘍に関しては、腹腔鏡による治療が安全に行えるとされています。

LECS(腹腔鏡・内視鏡合同手術)

当院では、5cm以下の胃粘膜下腫瘍に対しては、外科医と消化器内科医(内視鏡医)とが合同で手術を行う、LECS(腹腔鏡・内視鏡合同手術)という手術を行っています。内視鏡(胃カメラ)で胃内腔より病変を確認、最小限のマージンを確保して胃内腔より腫瘍を全層で切除。その後、外科医が腹腔鏡にて胃壁欠損部を縫合閉鎖します。胃内腔より腫瘍の位置を確認して、内腔より切除を行うことで胃壁の切除範囲は最小限で抑えることができ、胃壁の変形も少なく、胃の機能も温存できるというメリットがあります。当院では2010年よ3月より開始し、2019年4月で35例の手術を施行しています。

内視鏡で切除範囲を決定
(最小限の切除範囲)
手術終了後の確認内視鏡
胃壁の変形が少ない

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食道外科

食道がん

2014年の食道がんの罹患率(人口10万人あたり新たにがんと診断される人数)は、男性30.8、女性5.6であり、胃がん(男性140.1、女性60.2)や大腸癌(男性124、女性88)に比べると少ないですが、生存率(がんと診断されてから5年後に生存している人の割合)を見てみると胃癌65.3%、大腸癌72.2%に対して食道癌では36.0%であり、治療困難ながんであることが分かります(国立がん研究センターがん対策情報センターによる)。

食道癌のリスク

治療困難ながんの一つである食道がんですが、リスクを知ることで予防、早期発見、早期治療につながります。食道がん発生のリスクについて解説します。

食道癌の明らかな危険因子は、喫煙飲酒です。しかし、すべての大酒飲みや、ヘビースモーカーが食道癌になるわけではありません。実は、遺伝子多型(生まれながらにして持っている体質)が密接に関与しています。

アルコールを飲むと、約20%は胃で、残りは小腸で吸収されます。吸収されたアルコールは肝臓で、ADH1Bという酵素によりアセトアルデヒトへ代謝(変化)し、さらにアセトアルデヒドはALDH2という酵素の働きにより酢酸へ代謝されます。この、アセトアルデヒドは二日酔いの原因であるとともに発癌性があるといわれています。アセトアルデヒドを代謝する酵素(ALDH2)の働きが弱い人は、強い人に比べ、体の中にアセトアルデヒドが留まる時間が長くなることでリスクがあがると考えられています。

どのような人がALDH2の働きが弱い人なのでしょうか?①ビール一杯程度の少量の飲酒で、顔が赤くなる人、②お酒を飲み始めた若いころにそういう体質のあった人、のどちらかの当てはまる人は、ALDH2の働きの弱い可能性が高いです。

では、飲酒や、喫煙でどれくらい食道癌のリスクがあがるでしょうか?

日本人に一番多い、遺伝子多型の人(ADH1Bの働きが強く、ALDH2の働きが弱い)で比べてみます。すると、まったく飲酒、喫煙しない人に比べ、喫煙のみする人は約3.4倍、飲酒のみで約4.2倍、飲酒と喫煙両方する人は約14.3倍のリスクがあるという研究結果があります1)。つまり、禁煙しお酒を飲まないことで、随分と食道癌のリスクを下げることができると考えられます。禁酒、禁煙が現実的に難しい場合もあるかと思いますが、ハイリスクな人は、早期発見のために積極的に食道癌の検診を受けることをお勧めします。

1) Matsuda K etc. Functional variants in ADH1B and ALDH2 coupled with alcohol and smoking synergistically enhance esophageal cancer risk. Gastroenterology. 2009

食道癌の治療

当院では、そのような難治性の食道がんに対して、外科、腫瘍内科、放射線科、内視鏡科などの各科が連携し、外科手術(食道切除)、抗がん剤治療、放射線治療、内視鏡的切除、それらを複合的に組み合わせた集学的治療など、患者さんの個人の病状に合わせ、ご本人の希望も十分に考慮しながら治療を行います。

食道切除

外科が科担当します。

食道がんでは、食道周囲だけではなく、頸や腹部のリンパ節など広範囲へ転移することが多く、これらの3つの領域のリンパ節切除を伴う食道切除が一般的な治療であります。食道を切除したあとは、新たな食事の通り道を作る(再建)必要があります。再建には、一般的に胃を用いますが、場合によっては大腸や小腸を用いることもあります。頸部、胸部、腹部の3か所に傷ができるうえ、長時間手術になるため、患者さんにとって非常に負担の大きな手術になります。

当院では、その負担を軽減するために2009年より胸部の操作(食道の切除)に胸腔鏡手術(カメラを使った手術で、胸の傷は2-3cmのものが5-6か所)を導入、2013年には腹部の操作(お腹のリンパ節や胃の切除)にも腹腔鏡手術を導入し、現在では頸部以外の操作はすべて鏡視下で行うことにより、患者さんの負担を最小限にしています。その結果、術後の傷の痛みの軽減により早期離床が実現し、肺炎などの呼吸器合併症の軽減につながっています。

従来の開胸手術
腹腔鏡手術
放射線治療

放射線治療科が担当します。

食道切除と同様に食道がん治療の主たるもののひとつで、食道を温存する治療が可能です。化学療法と併用する「根治的化学放射線療法」、手術の補助療法として化学療法と同時に照射する「術前化学放射線療法」、また症状緩和を目的とした「緩和的照射」など、様々な場面で活躍します。

化学療法

腫瘍内科が担当します。

手術と組み合わせることにより、より生存率を高めるために行う「術前補助化学療法」もしくは「術後補助化学療法」や、放射線と組み合わせて食道を温存して治療する「根治的化学放射線療法」など、集学的治療で活躍します。

内視鏡的切除

内視鏡科が担当します。

リンパ節転移のない早期の食道がんに対して内視鏡で食道の内側のみ切除します。食道温存治療の一つです。

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香川大学医学部附属病院

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〒761-0793香川県木田郡三木町池戸1750-1

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