1.
糖鎖戦略マップの開発
   
ヒト型糖鎖の機動的産業応用を目指して


   担当:住吉、中北
   連携パ−トナー:増田化学工業(株)

 糖鎖は多様な構造と不均一性をもつことから、均一標品の大量、多品種の調製には大きな困難を伴います。化学合成や酵素合成にはそれぞれ長所がありますが、実量(>mg)の高分子量(>1,000)糖鎖を100種類以上揃えるのは費用対効果を考えるとむしろ非現実的でしょう。私たちは、さまざまな生体資材から糖たんぱく質を一括抽出、糖鎖遊離を行い、液体クロマトグラフィーの溶出位置、収量と連動させた「糖鎖溶出戦略マップ」の作成を進めてきました。これらの情報が完備された戦略マップの開発数はすでに40以上に達しており、今後の、ヒト型糖鎖の実用化が期待されます。最初からヒト型糖鎖の産業応用を睨んだ他に無いユニークな研究開発テーマです。



2.有用ヒト型糖鎖の大量調製:
   高分岐N-配糖体糖鎖の1 g取得を目指して


   担当:住吉、中北
   連携パートナー:増田化学工業(株)

 細胞表面上や細胞から分泌されるたんぱく質の多くに糖鎖が結合しており、たんぱく質の機能や安定性などに関与しています。近年、エリスロポエチンなどの糖たんぱく質製剤は培養細胞を使って生合成されるようになってきました。しかしながら、培養細胞ではたんぱく質自体は均一に合成できるにもかかわらず、糖鎖構造を均一にすることは非常に困難です。私たちの研究室では、構造が複雑で酵素法や化学法では合成できない糖鎖(多分岐N-配糖体糖鎖)を1 g調製することを目的としました。有機合成で糖たんぱく質を合成する際、1 g程度は原料として必要となります。有機合成で糖たんぱく質が合成されれば、たんぱく質構造だけでなく糖鎖構造も均一に合成することが可能になります。




3.糖鎖関連抗原分子の検索システム開発:
   輸血製剤に含まれる未知抗体を探る


   担当:山田、中北
   連携パ−トナー:(株)レクザム

 近年、様々な血液製剤が開発され、日本で輸血を受ける患者数は年間120万人に昇ります。輸血に使用される血液製剤は輸血不適合が起こらないように万全に検査さていますが、今でも年間で2000件もの原因不明の輸血副作用報告があります(参考資料1)。輸血副作用は、血液製剤中に存在する抗体が、患者体内に発現するなんらかの抗原認識することで惹起される免疫応答(あるいは、この逆のパターン)が主な原因として考えられています。しかし未だに、その抗原の同定は十分ではなく、一部は糖鎖を含む膜抗原であるとの情報もあります。私たちは、大量調製可能なヒト型糖鎖の有効利用も含め、血液中に存在する事故原因抗体を高感度に検出する血液検査システムの確立を目指します。
参考資料1:日本赤十字社ホームページ



4.海草中に含まれるβグルカンの構造解析と産業応用:
   食品添加物としての可能性を探る


   担当:住吉
   連携パートナー:宮西伸光准教授(東洋大・生命科学)、宝食品(株)

 βグルカンは酵母やキノコの細胞表面多糖として存在し、強い免疫賦活作用、制がん作用を持つ有用物質として注目が集まっています。私たちは海草(コンブ目)から酸抽出で得られるβグルカン(β1-3主鎖にβ1-6分岐をもつ)に注目し、その酸水解物であるβグルコオリゴ糖の化学構造、分析法に関する研究開発を行っています。今まで、βグルカンに関する構造解析は十分なされておらず、各種健康食品などへの応用に関しては明確な科学根拠が無いことが指摘されたこともありました。私たちは、自らが有する糖鎖分離技術や質量分析による構造解析技術を駆使し、各βグルコオリゴ糖の詳細構造を解明することで、今まで曖昧であった構造・生理活性の関連を明確にできたらと考えています。



5.希少糖(希少ヘキソース)の天然での分布:
   希少糖は本当にrareなのか


   担当:中北・山田

 希少糖とは天然にほとんど存在しない単糖と定義されています。ところが、ある植物の茎や葉には単糖の状態でグルコースと同じくらいの量の希少糖(プシコース)が存在していることが報告されています。私たちは、この疑問(希少糖=まれで少ない糖?)に答えるべく、単糖の高感度な分析方法の開発を行い、fmol(0.0001 μg)の感度で分析を行うことが出来るようになり、植物の葉1枚(約1-10 g)からでも希少糖の有無を調べることが可能になりました。現在、植物やきのこやカビといった菌類中の単糖や多糖中の構成糖を調べる(組成分析及び定量)ことで希少糖(特にヘキソースに注目)が自然界にどの程度存在しているのかを調べています。
















研究概要